江の島への近道 湘南モノレール株式会社

第四回 ちょっとしたアイテムで広がる観察の楽しみ

鎌倉には谷あいの低湿地、いわゆる谷戸が多く存在する。

鎌倉中央公園を含む一帯も「山崎の谷戸」と呼ばれ、かつては谷戸の地形を生かしあちこちで農業が営まれていたそうだ。その一部が公園となったいまも、地元の方の手によって園内に谷戸の農村風景や昔ながらの農法が守り継がれている。

pic4-1.jpg疎林広場から階段を降りてきたあたりに広がる田んぼ。稲の苗が並び、農作業を行う人たちの姿が見えた。

変形菌探索隊一行の最後の目的地は、園内の奥に広がる田んぼの周辺。雑木林から切り出した丸太が積み置かれた場所を中心に、変形菌を探す。こういった丸太も、変形菌の住処なのである。

pic4-2.jpg丸太の上に並ぶホソエノヌカホコリ。横をのそのそ通り過ぎるイモムシ。

pic4-3.jpgムラサキホコリの仲間。お菓子みたいで美味しそうだ。

最初は手探り状態だったが、境野さんのガイドのおかげで徐々に目が慣れ、自分たちでも少しずつ発見できるようになってきた。

pic4-4.jpg宝石のように輝くツヤエリホコリ(撮影:境野圭吾)

pic4-5.jpg落ち葉の上のマルサカズキホコリ(?)(撮影:宮田珠己)

園内のいたるところに、適度に風通しが良い谷戸があり、かつ変形菌の住処となる落ち葉や丸太が残る鎌倉中央公園は、変形菌を探すのにうってつけな場所。じっくり探すと、じつにさまざまな種類の変形菌が潜んでいることに驚く。

今まで気にも留めなかった場所に、幾層にもわたり生き物の世界が存在していることを実感すると、心なしか目の前の景色の奥行きや解像度がぐんと増す気がする。

公園でも、落ち葉や落ち枝、倒木などを適度に残しておいてほしい、と境野さんは言う。

たしかに落ち葉や丸太をある程度残すことで、変形菌のように、その場所を住処とする生き物の暮らしが守られ、全体として公園内の生き物の多様性につながるのだろう。

pic4-6.jpg落ち葉の上の変形菌。今までだったら、ただの模様かホコリに見えていただろう。

午前中から開始した変形菌探し。ルーペ越しに広がる細やかな世界はとにかく新鮮で、気づいたら夕方近くになっていた。

まだまだこの小さな世界に浸っていたい気もするが、すっかりお腹が空いたので、公園を後にすることにした。

〈変形菌観察ことはじめ・おすすめアイテム〉

さて、これから夏休みシーズン。そして変形菌観察のベストシーズンでもある。

変形菌を生で見てみたくなったという方に向けて、観察の際に必要な道具・あると便利なアイテムをご紹介したい。

・ルーペ

変形菌観察に必携なのはルーペ。10〜20倍程度の倍率があると、子実体の姿かたちなど、細部までじっくり堪能することができる。

pic4-7.jpg変形菌観察の必携アイテム・ルーペ。変形菌だけでなく、苔や葉っぱを拡大してみても楽しかった。

・マクロ撮影できるカメラ

変形菌はとても小さいので、撮影が本当に難しい。

pic4-8.jpgこんな風に、ピントが合わずぼやけてしまうことがしばしば

アップで隅々まで綺麗に撮り収めるには、機材や撮影方法に相当こだわる必要があり、それだけで1日がかり、ということも珍しくないそう。

じっくり観察したいけれど、せっかくなので写真も撮りたいという場合、マクロ撮影機能のついたデジカメが便利。しかし、一番お金がかからず手軽なのはスマホ用のマクロレンズだ。

pic4-9.jpgスマホ用のマクロレンズ

クリップ型のレンズをスマホのレンズの部分にセットすると、変形菌のような小さいものでも至近距離で撮影できる。大型電気店だと2000円近くするものもあるが、100円ショップでも手に入れることができる。

スマホで撮影した写真は、SNSやメールなど、その場で他の人と共有できるのもメリットだ。

pic4-10.jpgスマホ用のマクロレンズで撮影した変形菌。肉眼だと小さな虫が、変形菌と比べると巨大!(撮影:池田里麻子)

・マット

変形菌を観察したり写真を撮ったりする際、地面に這いつくばる時間が意外と長い。マットがあると、服の汚れを気にせず堂々と這いつくばれる。

ちなみにわたしは持参したマットをろくに使わなかったところ、服が泥だらけになり、肘や膝に謎の痣がたくさんできてしまった。あらためてマットの重要さを実感したので、自戒を込めておすすめしておく。

pic4-11.jpgクッションの入ったマットだと這いつくばっても痛くない。

・箱とテープ

境野さんは、この日見つけた変形菌の中で気になるものがあるとのことで、持参したプラスチックケースに入れて持ち帰っていた。

観察中に出会った変形菌を持ち帰りたい場合、このように蓋つきの箱があると便利だ。

子実体はちょっとした衝撃で形が崩れるので、箱に固定することが大事だそう。固定する際は、包帯やガーゼを固定するサージカルテープやマスキングテープが使い勝手が良い。

pic4-12.jpg変形菌のついた枝をプラスチックケースに固定。バンソウコウやペットボトルについていたシールなど、あり合わせのテープで代用。

・服装

鎌倉中央公園のような草木の多い場所で変形菌を探す際、長袖・長ズボンが安心だ。加えてこれからの時期は特に、虫除けスプレーや虫刺されの薬など、虫除け対策をしっかり行おう。

・飲み物

変形菌を一度探し始めると、ついつい時間を忘れて没頭してしまうが、熱中症予防のため、こまめな水分補給を心がけよう。

以上駆け足ではあったが、変形菌観察の際にあると良いアイテムをいくつかご紹介した。

谷戸が多い鎌倉。きっと鎌倉中央公園以外にも、変形菌はうじゃうじゃ潜んでいるに違いない。

ルーペでじぃーっと変形菌の世界に浸っていると、日々の瑣末な悩みなんてどうだってよくなる気がする。

気分転換に、夏休みの自由研究に、リタイア後の新しい趣味に。

ぜひこの夏は、ルーペを片手に変形菌探し、いかがだろうか。

参考文献:
『かまくら・山崎 谷戸と暮らし』(山崎・谷戸の会)
『観察から識別まですべてがわかる!変形菌入門』(川上新一・新井文彦・高野丈/文一総合出版)
『粘菌生活のススメ: 奇妙で美しい謎の生きものを求めて』(新井文彦・川上新一/誠文堂新光社)

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村田あやこ(変形菌編)
路上園芸鑑賞家。福岡県生まれ。大学では地理学を学ぶ。街角の園芸活動や植物に魅了され「路上園芸学会」を名乗り魅力を発信。植物への興味が尽きず園芸装飾技能士の資格も取得。『街角図鑑』(三土たつお編著・実業之日本社、2016年)に路上園芸のコラムを寄稿。好きな植物はアロエ、シェフレラなどの丈夫な熱帯植物。TwitterInstagram @botaworks
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