江の島への近道 湘南モノレール株式会社

#07 「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの史跡を訪ねる(材木座の来迎寺)

 さて、和田塚から次の目的地である材木座の来迎寺までは、公共交通機関を使わず散歩することにしよう。
 まずは、海の方角(南)へ150mほど進み、「和田塚入口」交差点を左折する。そのまま一本道をどんどん進み、若宮大路を越え、その先の滑川の流れを渡ると、材木座と呼ばれるエリアに入る。このエリアは鎌倉の中にあって、観光名所なども少なく、スローな時間が流れる海辺の住宅地が広がっている。
 ちなみに、「材木座」の地名の由来を『鎌倉の地名由来辞典』(三浦勝男編 東京堂出版)で調べると、以下のように書かれている。

鎌倉時代に入って材木を扱う商工業者組合である「座」ができたことで名付けられた地名だ、とされる

 さて、道なりに歩を進めると、右側に九品寺という寺院が見えてくる。この寺は鎌倉幕府を滅亡に導いた新田義貞が、敵方であった北条氏の戦死者を供養するために建立したものだ。

kamakuraden_07_01.jpg九品寺

 この九品寺門前の通りは、「小町大路」という名で呼ばれている。大路といっても、若宮大路ほど立派な通りではなく、車同士がすれ違うとき、場所によっては電柱を気にしなければならないような狭い道である。
 頼朝入府後、鎌倉の街を整備するに当たっては、平安京に倣って東西南北に道を走らせ、「碁盤の目」のようにする計画が立てられたとされる。若宮大路と小町大路は、このうちの街を南北に貫く大路だったわけだが、Googleマップで見てみると、小町大路は南に行くにつれ、東へ湾曲しているなど、あまり「碁盤の目」のようには見えない。京都と異なり、平地部が限られた鎌倉では、これが限界だったのであろう。

 さて、目指す来迎寺は、小町大路から1本東側の路地に入った、丘陵のふもとにある。

 来迎寺には、『鎌倉殿の13人』の1人である三浦義澄の父、三浦義明の墓がある。衣笠城を畠山重忠の軍勢に襲われたいきさつについては前回書いたが、この戦の際、義明は当時89歳という高齢にも関わらず奮戦し、義澄や和田義盛以下、一族を海上に逃し、自らは最後まで城を守って討ち死したのである。
 義明が義澄らを逃がすに際して、最後に言って聞かせた言葉は、『吾妻鏡』によれば、以下の通りであった(吉川弘文堂の『現代語訳吾妻鏡』より引用)。

「私は源家累代の家人として、幸いにもその貴種再興の時にめぐりあうことができた。こんなに喜ばしいことがあるだろうか。生きながらえてすでに八十有余年。これから先を数えても幾ばくもない。今は私の老いた命を武衛(源頼朝)に捧げ、子孫の手柄にしたいと思う。汝らはすぐに退却し、(頼朝の)安否をおたずね申上げるように。私は一人この城に残り、軍勢が多くいるように重頼に見せてやろう」

貴種=源氏の嫡流である頼朝
重頼=畠山勢に加勢した河越重頼

 後日、この義明の言葉を聞いた頼朝は感激し、現在、来迎寺がある場所に能蔵寺という寺院を建立し、義明の菩提を弔った。それが、来迎寺に義明の墓があるゆえんである。

kamakuraden_07_02.jpg来迎寺の三浦義明の墓。本堂裏手には、家来の墓という小さな五輪塔群もある

 余談になるが、鎌倉市内にはこの材木座の来迎寺のほかに、もう1つ来迎寺がある。場所は鶴岡八幡宮境内東側の西御門(にしみかど)であり、本尊は、妖艶ともいえる雰囲気を持つ如意輪観音像である。間違えて、そちらの来迎寺に行ってしまわないように注意願う。

【補足】三浦氏の滅亡について
 本文で紹介した、幕府草創期以来の功臣であり、北条氏に次ぐ大族として権勢を誇った三浦一族は、1247(宝治元)年に起きた宝治合戦で滅んだ。
 源氏の血筋が3代将軍・実朝で途絶えた後、京都から招いた「お飾り」の将軍を奉る将軍派の三浦氏と、北条氏・安達氏など執権派が対立し、執権派が勝利したのだ。
 三浦氏の滅亡により、これより後、幕府政治は合議制から北条得宗家(本家)による専制政治へと傾いていった。

【地図】
https://www.google.com/maps/d/edit?mid=1ELCW2J6nG2U5G1OxoIcexyU2oSXR11xv&usp=sharing

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森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト。
現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。テレビ・ラジオにも多数出演。過去にNHK学園、玉川高島屋カルチャーにて鎌倉散策講座の講師を担当。2020年1月には、初の小説作品『ホワイト・ライオン』(幻冬舎)を上梓し、各種メディアで取り上げられる。その後、コロナ禍の中「湘南モノレール全線開通50周年記念誌」の執筆・編集にも取り組んだ。
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