江の島への近道 湘南モノレール株式会社

#06 「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの史跡を訪ねる(和田塚)

 前回は、長谷の甘縄神明神社に足を運んだ。今回は、江ノ電で「長谷駅」から2駅先の「和田塚」駅に向かう。
 江ノ電の駅名「和田塚」とは何なのだろう?と思われている方がいるかもしれない。実は、駅のすぐ近くに『鎌倉殿の13人』の1人、和田義盛とその一族に由来する「和田塚」という名前の塚があるのだ。

kamakuraden_06_01.jpg和田塚外観

 「塚」というのは、元々、「盛り土をした墓(古墳)」を意味する言葉であるから、ここには和田義盛とその一族が埋葬されているのだろうか。これについて、『鎌倉の地名由来辞典』(三浦勝男編 東京堂出版)を調べてみると、以下のように書いてある。

名前の由来は和田義盛の乱に際し、戦死した和田一族の遺体を葬った場所とされ、塚上にはその旨を記した石碑と五輪塔群があるが、巷間でこう云われるようになったのは、明治三十四年(一九〇一)以降のことであり、塚自体と和田氏の乱との直接的な関連はない。

 出鼻をくじかれるようで、なんとも残念な気分になるが、気を取り直して、塚の上に設置されている由比ヶ浜青年会が設置した案内板にも目を通してみよう。

kamakuraden_06_02.jpg塚上に立てられている「和田一族戦没地」「和田義盛一族墓」の石碑

kamakuraden_06_03.jpg由比ヶ浜青年会が設置した案内板

 案内板には、「和田塚の前身は古墳時代の墳墓であったと言われている。大正末年ごろの開墾などによって多くの塚が壊されたが、五輪塔をならべた和田塚はかろうじて残った」とある。つまり、この塚は、開発により周囲を切り取られ、頂上部分のみが残った古代の古墳なのである。
 ではなぜ、古墳と和田一族が結びつけられたのか。それを知るために、和田義盛とはどのような人物だったのか、また、1213年に起きた「和田合戦」についても説明しよう。

 和田氏は、三浦半島を治める三浦氏の支族の1つであり、同じく「鎌倉殿の13人」の1人である、三浦本家を継いだ三浦義澄とは叔父と甥の関係にある(義盛が甥)。
 頼朝旗揚げに際しては義盛も三浦一族の一員として、頼朝に味方すべく出陣した。
 このとき、三浦半島を拠点とする三浦軍がたどったのは、今でいうならば横須賀線と東海道線を乗り継いで、横須賀から伊豆を目指す経路だった。
 ところが、三浦軍は大雨による酒匂川の増水に阻まれ、石橋山合戦には間に合わず、やむなく三浦半島に引き返すことになったのだが、その帰路、由比ヶ浜で、平家方に参戦していた秩父党の畠山重忠の軍勢と合戦になってしまう(小坪合戦)。
 三浦、畠山の両家は、今回の戦では、たまたま源氏方と平家方の敵味方に分かれたものの、元々、両家は縁者であり、互いに怨恨があるわけでもなく、わざわざ交戦する必要はなかった。
 それにもかかわらず合戦になったのは、『源平盛衰記』によれば、血気盛んな義盛が畠山勢の前で名乗りを上げ、また、遅れてきた義盛の弟・義茂が事情を知らずに、畠山勢に攻撃をしかけたからだという。
 畠山軍はこの由比ヶ浜での敗戦の屈辱を晴らすために、数日後、武蔵国から河越重頼らの軍勢も呼び寄せ、三浦氏の本拠地である衣笠城を襲う。義盛らは奮戦したものの、先日の由比ヶ浜の戦いで疲れ果てており、城を捨てて海上に難を逃れ、海上で頼朝らと合流し、安房(房総半島南部)へと渡った。

kamakuraden_06_04.jpg千葉県安房郡鋸南町の「源頼朝上陸地」の碑

 このときに、義盛が頼朝に、「もし、佐殿(頼朝のこと)が天下をお取りになったならば、どうか私を侍所の別当(警察・軍事の長官)に任じてください」と言い、この言葉に喜んだ頼朝は、その通りにすると約束した。そして、政権樹立後、頼朝はその約束を違えることなく、義盛を初代侍所別当に任じたというエピソードは有名である。
 また、頼朝が安房に逃れた当時、房総半島には上総広常、千葉常胤(つねたね)という二大勢力があった。頼朝は、上総広常の下へは和田義盛を、千葉常胤の下へは前回紹介した安達盛長を使者として派遣した。その結果、上総広常が出陣を渋り、一方の千葉常胤がすぐに出陣に応じたのは、無骨者の和田義盛と如才ない安達盛長の違いだとも言われる(もちろん、それだけが理由ではないが)。
 さらに、梶原景時と義盛のエピソードとして、こんな話もある。景時から「わしは前々から侍所別当になりたかった。1日でいいからやらせてはもらえないか」と頼まれ、人の良い義盛が、ちょうど服喪期間中だったのでそれを許したところ、そのまま職を奪われてしまったというのである。
 こうした逸話を紹介すると、義盛というのは、なんともお人好しで不器用なオヤジという印象を受けるが、平氏追討や奥州合戦では活躍を見せるなど、頼朝の信任厚い武将だった。
 だが、1213年、義盛の運命を決定づける出来事が起きる。この年に発生した北条氏打倒の陰謀に、義盛の子と甥が加わっていることが明らかになったのだ。
 義盛は、将軍・源実朝の下へ助命の嘆願に訪れる。しかし、甥は陰謀を企てた張本人であるとして許されず、陸奥へ配流と決まった。しかも、当時、罪人の屋敷はその一族に下げ渡される慣習であったにも関わらず、甥の屋敷は別の者の手に渡されるという恥辱も受けた。これは、三浦一族の勢力を削ごうとする執権・北条義時による、義盛に対する挑発だったのだ。
 この挑発に、まんまと乗せられた義盛は、「打倒義時」を掲げ挙兵してしまう。しかし、三浦本家の加勢も得られず、2日間にわたる激戦の末、義盛らは由比ヶ浜で討ち死を遂げ、和田一族は滅んだ。
 「和田塚」が和田一族の墓かどうかはさておき、数百年前、この地で和田一族が壮絶な最期を遂げたのは、紛れもない事実である。

【地図】
https://www.google.com/maps/d/edit?mid=1ELCW2J6nG2U5G1OxoIcexyU2oSXR11xv&usp=sharing

LINE
Twitter
facebook
google+
hatenablog
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)ポートレート
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト。
現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。テレビ・ラジオにも多数出演。過去にNHK学園、玉川高島屋カルチャーにて鎌倉散策講座の講師を担当。2020年1月には、初の小説作品『ホワイト・ライオン』(幻冬舎)を上梓し、各種メディアで取り上げられる。その後、コロナ禍の中「湘南モノレール全線開通50周年記念誌」の執筆・編集にも取り組んだ。
著者のご紹介
mr.ブラーン
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)ポートレート
「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの地を歩く
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト
佐藤淳一ポートレート
乗らずにいられない、懸垂式モノレールの魅力
佐藤淳一
ドボク+動物のかけもち写真家
宮田珠己ポートレート
湘南モノレールはどのぐらいジェットコースターなのか
宮田珠己
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
宮田珠己(続編)ポートレート
5つの面白レールを1日で。ゆかいなのりもの大冒険!
宮田珠己(続編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
村田あやこポートレート
路上に潜む異世界を求めて ー湘南モノレール沿線 路上園芸探索ー
村田あやこ
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(続編)ポートレート
湘南モノレールから歩いていける森巡り
村田あやこ(続編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(変形菌編)ポートレート
ルーペの向こうのちいさな世界
村田あやこ(変形菌編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(大船系植物編)ポートレート
「大船系」植物と玉縄桜~知っていますか?大船生まれの植物たち~
村田あやこ(大船系植物編)
太田和彦ポートレート
大船で飲む
太田和彦
作家。旅と酒をこよなく愛する
八馬智ポートレート
土木構造物としての湘南モノレール鑑賞術
八馬智
ドボクの風景を偏愛する都市鑑賞者
西村まさゆきポートレート
湘南モノレールの昔と今を比べてみる
西村まさゆき
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(続編)ポートレート
開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅
西村まさゆき(続編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(車両基地編)ポートレート
大人のモノレール車両基地見学記
西村まさゆき(車両基地編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
大船ヨイマチ新聞ポートレート
よい街 オーフナ
大船ヨイマチ新聞
大船のフリーペーパー。昼は「良い街」夜は「酔い街」。
皆川典久ポートレート
地形マニアと鉄ちゃんの凸凹乗車体験記〜湘南モノレールに乗って〜
皆川典久
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
皆川典久(続編)ポートレート
湘南モノレールに乗らずに
皆川典久(続編)
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
能町みね子ポートレート
ほじくり湘南モノレール
能町みね子
肩書きに迷いつづけ、自称「自称漫画家」。散歩好き。
ドンツキ協会ポートレート
ドンツキクエスト in 湘南モノレール
ドンツキ協会
ドンツキ協会は東京の路地の町、向島を拠点に、袋小路『ドンツキ』の研究に取り組む団体。
大谷道子ポートレート
湘南モノレール運転士インタビュー 「運転する人どんな人」
大谷道子
ライター・編集者。
井上マサキポートレート
湘南モノレールの「まっすぐ路線図」を鑑賞する
井上マサキ
路線図を鑑賞するライター
井上マサキ(ぶら喜利)ポートレート
ぶら喜利
井上マサキ(ぶら喜利)
路線図を鑑賞するライター
鈴木章夫ポートレート
湘南モノレールバー人図鑑
鈴木章夫
誰かをちょっとだけびっくりさせるのが幸せ。かまくら駅前蔵書室(カマゾウ)室長
二藤部知哉ポートレート
ソラdeブラーンdeラーン
二藤部知哉
沿線在住のんびりブラーンランナー
いのうえのぞみポートレート
湘南フォトレール カメラを持って湘南モノレールに乗ろう!
いのうえのぞみ
モデル・タレントで世界一周を目指すカメラマン
大村祐里子ポートレート
フィルムdeブラーン
大村祐里子
フィルムカメラをこよなく愛する写真家
川口葉子ポートレート
モノレールdeカフェ散歩
川口葉子
都市散歩と喫茶時間を愛するライター、喫茶写真家。
松澤茂信ポートレート
湘南別視点ガイド
松澤茂信
東京別視点ガイド編集長。珍スポットとマニアのマニア。
川内有緒ポートレート
湘南トライアングルをめぐる旅
川内有緒
ノンフィクション作家
田中栄治ポートレート
MonoTube
田中栄治
地上と空のスピード感を追い求めている素人カメラマン
三土たつおポートレート
本物の車内アナウンスが楽しすぎた。
三土たつお
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
三土たつお(続編)ポートレート
湘南モノレール風景図鑑
三土たつお(続編)
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
杉浦貴美子ポートレート
食べる!湘南モノレール -湘南「地形菓子」制作奮闘記-
杉浦貴美子
地図・地形好きライター
今泉慎一ポートレート
〝もののふ隊〟駅前砦にあらわる
今泉慎一
旅・歴史・サブカル好き編集者兼ライター
ワクサカソウヘイポートレート
車窓の冒険
ワクサカソウヘイ
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
ワクサカソウヘイ(夜編)ポートレート
夜になると 湘南モノレールは
ワクサカソウヘイ(夜編)
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
半田カメラポートレート
大船観音の劇的楽しみ方
半田カメラ
大仏写真家
遠藤真人ポートレート
ジェットにGO!GO!!
遠藤真人
モノレールに敬礼!鉄道写真バンザイ!
石川祐基ポートレート
湘南モノレール「もじ鉄」旅
石川祐基
グラフィックデザイナー。鉄道と文字が好きな、もじ鉄。
大竹聡ポートレート
腰越で飲む
大竹聡
酒と酒場をこよなく愛するフリーライター
荻窪圭ポートレート
道標をきっかけに江の島まで古道を辿る
荻窪圭
老舗のデジタル系ライター。古道・古地図愛好家。
松本泰生ポートレート
湘南モノレールが見える階段を探して
松本泰生
階段研究家
大山顕ポートレート
湘南モノレールに乗って体長2kmのヤギを描く
大山顕
ドボクフォトグラファー
田代博ポートレート
湘南モノレールと富士山
田代博
富士山遠望鑑定士。ダイヤモンド富士ハンター。
北尾トロポートレート
町中華タウン大船をゆく
北尾トロ
町中華探検隊隊長
喜清みずほポートレート
失われた 記憶をたどる まぼろしの遊園地「江の島龍口園(えのしまりゅうこうえん)」
喜清みずほ
鎌倉観光ボランティアガイド
宮田珠己(龍口寺編)ポートレート
龍口寺の龍と、謎の仏像
宮田珠己(龍口寺編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
加門七海ポートレート
江の島怪談闇歩き
加門七海
作家
中野純ポートレート
江の島怪談闇歩き
中野純
負の走光性がある、闇歩きガイド
髙山英男ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
髙山英男
中級暗渠ハンター(自称)。
吉村生ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
吉村生
暗渠マニアックス
宮田珠己(空の駅編)ポートレート
湘南江の島駅は、日本一高い駅だった!?〜日本一、地上高が高い駅はどこか?
宮田珠己(空の駅編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
西村まさゆき(駅名編)ポートレート
湘南モノレール「駅名」ルーツをたどる旅
西村まさゆき(駅名編)
石山蓮華ポートレート
いい線いってる夜
石山蓮華
電線愛好家
中島由佳ポートレート
いい線いってる夜
中島由佳
ゴムホースマニア
加賀谷奏子ポートレート
いい線いってる夜
加賀谷奏子
サンポー編集部ポートレート
しょもたんの完全一致を探す散歩
サンポー編集部
散歩の横好き集団
中野純(鎌倉大横断編)ポートレート
鎌倉大横断ミッドナイトハイク
中野純(鎌倉大横断編)
負の走光性がある、闇歩きガイド
森川天喜ポートレート
湘南モノレール全線開通までの全記録
森川天喜
フリージャーナリスト
しょもたんポートレート
モノレールの運転士さんや駅員さんの話をきいてみよう!
しょもたん
湘南モノレールのマスコットキャラクター。
森川天喜(今昔写真撮影隊)ポートレート
湘南モノレール沿線 今昔写真撮影隊!
森川天喜(今昔写真撮影隊)
フリージャーナリスト
モノ喜利(井上マサキ)ポートレート
モノ喜利
モノ喜利(井上マサキ)
めざせ!最優秀ブラーン賞
ヴッパータール空中鉄道座談会ポートレート
ヴッパータール空中鉄道について思いっきり語る
ヴッパータール空中鉄道座談会
ヴッパータール空中鉄道に乗車した人たち
モノ散歩ポートレート
モノ散歩
モノ散歩
沿線の魅力が集結!
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)ポートレート
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)