江の島への近道 湘南モノレール株式会社

 龍口寺は日蓮宗(にちれんしゅう)の古刹(こさつ)だが、龍口という地名は五頭龍(ごずりゅう)という龍に因んでいる。

 五頭龍さんは元々悪龍だったのだけど、江の島弁財天さんに惚れ込んで心を改めた。そして善行に励んだものの無理が祟って山と化し、龍口明神(りゅうこうみょうじん)として祀られたのだ。
 龍口は名の通り、五頭龍さんの口に当たる。そして、ここから西鎌倉に遷座(せんざ)した龍口明神社の建つ場所は胴体に当たるとされている。
 五頭龍さん、すっごく大きい!
 しかし良き伴侶でいるために命を縮めてまで尽くしたのに、弁財天のおわす江の島ではなく、本土に祀られるとはどういうことか。......なんか話が違う気がする。
 少し首を傾げつつ、橋を渡った我々はまたもメインの通りを避けて、西浦海岸に下っていった。

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 本日は大潮でもあり、普段は岩伝いに歩ける場所も波の下に没している。
 行けるところまで行ってみよう、と有志が艀(はしけ)を乗り越えた。その後ろ姿を眺めつつ、私は浜に腰を下ろした。

 実は私、海が怖いのだ。その上、夏が大の苦手で、しかも今回は喪中につき、神社にも入れない身の上だった。
 それでも江の島を選んだのは、歴史や伝説、信仰が重なり合う地に惹かれるゆえだ。

 とはいえ、喪中は予想外。気にしなければいいだけの話と言えばそれまでだけど、私は過去に幾たびか、喪中を無視して神社参拝した人が、大小のアクシデントに見舞われるのを端で見ている。たとえ迷信と言われようとも、あまり軽くは考えたくない。

 しかし、主催者が案内できない場所があるとはふがいない。
 というわけで、埋め合わせとして、今回はおばけ探知機"ばけたん"を投入することにした。
 説明書によると、これは特殊なセンサーにより、空間に存在する霊などをサーチするものだそうだ。どういう仕組みかは知らないが、最近は地震探知機としても評価されているらしい。
 ともかく、それをリュックの後ろにぶら下げて、怪談語りの一助にしようと考えたのだ。
 もっとも期待はしていなかった。が――。

 浜に戻ってきた人達に、江の島弁財天と江東区にある江島神社の繋がりを語っているうち、かなり暗くなってきた。我々は海辺から西浦墓地のほうに向かった。

 西浦墓地には、江戸時代の鍼師(はりし)杉山検校(けんぎょう)の墓がある。
 浜から狭い階段を上がっていくと、密集する近年の墓の一角に、ぽかりと黒い地面がある。その中央に、木々と卵塔婆(らんとうば)に囲まれて、検校の墓は建っている。
 元禄八年(一六九五)に建立されたという墓は、逢魔(おうま)が時のあわいに紛れて、ひと色黒く、迫力がある。
 そのときだ。
「光った!」
 後ろで声が上がった。

 聞けば、ばけたんが赤く明滅したのだという。
 説明書によれば、赤い光はGhostの出現を示すとされる。
「杉山検校?」「いや、まさか」
 本当に何か探知しているのか? というか、やはり墓地には何かがいるのだろうか。
 いずれにせよ、夕暮れの墓地にお邪魔しているのは我々だ。怒る"人"がいたって不思議ではない。
 いつもなら、こういう場所では手を合わせる人も出てくるのだが、このときは皆、赤い光に怖じ気づいたかのように、そそくさと墓地を後にした。

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中野純
体験作家、闇歩きガイド。「少女まんが館」共同館主。地獄のファーストレディ、奪衣婆を偏愛。霞ならなんでも食う。おもな著書に『「闇学」入門』(集英社新書)、『闇と暮らす。』(誠文堂新光社)、『庶民に愛された地獄信仰の謎』(講談社+α新書)、『東京洞窟厳選100』(講談社)、『闇を歩く』(光文社 知恵の森文庫)、『月で遊ぶ』(アスペクト)、『少女まんがは吸血鬼でできている』(大井夏代との共著、方丈社)、『東京サイハテ観光』(写真/中里和人、交通新聞社)などがある。
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東京生まれ。朝日ソノラマ文庫にてデビュー。怪談、オカルト、民俗学。最近は着物にはまっている。著書多数。近刊は『着物憑き』(集英社)
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