江の島への近道 湘南モノレール株式会社

(2)「モノチラ」階段を探し歩き、街並みを眺望する。

1.大船観音を望む階段

 始発の大船駅近辺は平坦な場所が広がり、かつてはJRの操車場もあったらしい。こういう場所にはあまり階段がないので、ひとまずモノレールに乗る。鋼鉄製の桁からぶら下がって空中を進むモノレールは、やはりかなりの異体験で魅力的だ。もっと乗っていたかったが、階段調査があるので一駅目の富士見町駅で下車して南側の丘陵へ向かう。
 最初に目指した階段は、アパートのわきの舗装されていない路地の奥にある。アパートのちょうど裏側で目立たないが、住宅地図情報を信じて奥へ進むと、いきなり長くまっすぐな階段の下に出た。

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大船観音を望む階段
所在地 鎌倉市台4-3と4の間
110段/高低差約25m

 神社の参道の石段のようにも見えるストレートな階段を上る。途中の踊り場は一ヶ所で88段。その先に緩やかな砂利道が続き、更に22段があって、計110段。建物なら6~7階まで上るのと同程度だ。
 東京の山の手も階段が多いが、その高低差は最大でも20mほどで、23区内では100段を超える階段は数えるほどしかない。しかし今回は最初から高低差約25mで100段以上の階段に遭遇。これはなかなかハードなことになりそうな予感。

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 振り返ると大船駅の方の眺望が開けていて、遠くには大船観音が見えている。そしてこのパノラマ景のなかを湘南モノレールが横切っている。しばらく佇んでいると、ゴーッ、ガタンガタンという音が遠くから小さく聞こえて、家々の間の空中を疾走するモノレールがちらちらと見えるのだった。

 上の写真にも実はモノレールが写っている。小さくて分からないと思いますが・・・。

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 乗り物が見える風景は楽しい。たとえ、それが遠くで小さくしか見えないものであっても。観音様とモノレールを同時に視界に納めることができ、開放的なパノラマ景を得られて早くも満足。事前に地図を見ていた時にはモノレールが見える階段なんてそうそうないだろうと思っていただけに、初っ端から課題をクリアしてしまったようでやや拍子抜けしたことは事実だが・・・。
 周辺は草が繁茂していて、手摺もない古びた階段だが、地元の人がときどき上ってくる。毎日ここを上り下りするのは大変だろうなぁなどと考えつつ、一方で、天気が良ければ遠くの山々まで見渡せるのかもしれないなぁなどと思いつつ、多くの人々が住み、働く、街の風景をしばらく眺め、味わうのでした。

2.住宅群の間を下る見晴らしが良い蛇行階段

 最初の階段を上りきって、少し歩くと、こんどは東向きに下る蛇行した階段の上に至る。この階段上の見晴らしも素晴らしい。先ほど同様、大船駅のある柏尾川流域の低地方向の眺望を得ることができるが、こちらは蛇行した階段なので、歩くに従って変化する景色を楽しむことができる。

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 この階段も、いちばん上からは湘南モノレールがチラッと見える。数年前にTVの「タモリ倶楽部」で電車がチラッと見える風景を「電チラ」と呼んでいたが、今回の階段歩きは「電チラ」(というか「モノチラ」かな?)探しなのかもしれない。

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見晴らしの良い蛇行階段
所在地 鎌倉市台4-3と14、15の間
164段/高低差約23m

 階段は蹴上げが12~15cmほどで緩やかで歩きやすい。ただ、164段もあるので上りきるのはやはり大変だ。高低差25mほどの道の途中には数軒の家があるが、これらは家の前までは自動車で行けないので、必ず数十段は上り下りせねばならない。
 今回の取材中、高齢の方にもときどき出会ったが、みな大変そうだった。私などは景色が良くて気分が良い住宅地だななどと気楽に考えているが、実際に住んでみると、高台の住宅地は車を所有していないと暮らしていくのはなかなか大変かもしれない。

3.木立の中の北野神社参道

 さて、こんどは湘南モノレール西側の山崎地区へ。湘南町屋駅の北には、北野神社のある丘が、街並みの中に緑の小島のように控えている。湘南モノレールの沿線では宅地開発が進み、斜面や丘の上に新しい住宅地が広がっているが、一方で、山下には蛇行した昔からの道がある。そして、通り沿いの奥まったところには、昔からの農家や名主などの立派な木造家屋があり、この地域のかつての街並み風景を偲ばせる。

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北野神社参道
所在地 鎌倉市山崎736
204段/高低差約40m

 北野神社の入口はその昔からの道沿いにあった。ぼんやり歩いていると通り過ぎてしまいそうなほど、街並みに埋もれて目立たない。通りから参道を覗くと、木立の中へ続く階段が見える。奥の方は薄暗く、どこまで続いて上って行くのか判然としない。

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 途中で振り返ると、先ほど上っていた丘がモノレールの反対側に見えた。今回、私はモノレールを挟んで両側の丘を行ったり来たりすることになるかもしれない。

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 参道の石段は急ではないがとにかく長い。下部の65段を上ると道は右へ曲がり、木立の中を更に上っていくが、まだ社殿は見えない。結局、山頂近くの社殿がある広場にたどり着くまでに、計204段、約40mを上ることになった。丘の上の神社への参道で、通り抜けられるタイプではないとはいえ、まちなかに200段もの階段があるのには驚かされた。

 木立の中を行く階段なので、あたりの景色はあまり見えないだろうと考えていたが、ところどころでは木々の間から街が見える。そしてときどき遠くから例のゴーッガタンガタンという音が微かに聞こえ、音のする方向を見ると、モノレールが木々の間、遠くの方を横切っていく。そう、ここも「モノチラ」の階段なのでした。

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 歩いてみると、「モノレールが見える階段」はすごく珍しいわけではなく、周辺の階段からは案外あちこちでチラッとは見えていることがわかってきた。ただ、写真に撮ると、モノレールは豆粒ほどにしかならない。階段のある大きな風景の中にモノレールが小さく見える写真は撮れるが、階段とモノレールの両者を大きく写せる場所となるとこれがかなり難しい。
 初回の訪問は夕方になって雨が降り出してしまい断念。とりあえず様子は分かってきたので、後日、もう少し南のエリアを訪れて再調査することにする。

 帰路は湘南深沢駅から大船へ。学校帰りの学生などで賑やかだなと思っていたら、次の湘南町屋駅から会社帰りのサラリーマンが大量に乗り込んできて、車内が満員になる。えーっ!なぜこうなる?!。湘南モノレールって想像以上に通勤・通学の足になっているのか。後で調べたら、沿線には三菱電機鎌倉製作所という大きな工場があるのだった。どうりで・・・。

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松本泰生
松本泰生(まつもと やすお)

1966年静岡市生まれ。尚美学園大学講師・早稲田大学オープンカレッジ講座講師。
早稲田大学理工学部建築学科卒業 博士(工学・早大)
専攻の都市景観・都市形成史研究を行う傍ら、1990年代から東京の街と階段、坂を訪ね歩く。
2000年代からはカルチャーセンター講座などで、地形や階段を中心としたまちあるきも行っている。
著書は『東京の階段-都市の「異空間」階段の楽しみ方』(日本文芸社)、『凹凸を楽しむ東京坂道図鑑』(洋泉社)、『新宿学』(紀伊國屋書店・共著)など。

ブログは「都市徘徊blog」https://blog.goo.ne.jp/asabata
「東京の階段DB」https://blog.goo.ne.jp/tokyostair
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