江の島への近道 湘南モノレール株式会社

湘南深沢カフェ散歩(中編)

4年目のポンポンケークス、何が変わった?

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「べーぐるもへある」から「ポンポンケークス」までは徒歩3分。<日常と特別のあいだ>にあるおいしいケーキの数々が愛されて、開店4年めに入ったポンポンケークス。店内には相変わらず気持ちのいい穏やかな活気が満ちていた。

ショーケースの中に素敵な驚きをみつけた。並んでいるケーキの顔ぶれが、季節のケーキ以外は変わっていないのだ。飽きられないために次々に目新しいメニューを開発しなければ、という世の風潮とは逆の光景。

店主の立道嶺央さんはなぜこんなやりかたを選んでいるのだろう? 桃のショートケーキ(最高)と紅茶を注文して2年ぶりにお話をうかがったら、自分でキーワードを持ち、日々それを育てている人ならではの面白さに再会して予定より原稿が長くなってしまったので、少しだけ覚悟してください。

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ケーキの基本は「トラディショナル・ニュー」

「昔からある伝統的なケーキを新しいかたちで、というのが僕たちの基本です」

立道さんはそのスタイルを<トラディショナル・ニュー>と呼ぶ。たとえば定番のレモンチーズパイは、東京・赤坂の老舗ケーキ店「しろたえのレモンチーズパイへのオマージュ。

「母が『しろたえ』のレシピを見つけ、それを自分なりにアレンジして作り始めたのが30年以上前のことでした。僕はそれを食べて育った。大好きな味なんです」

しろたえのレモンチーズパイは小ぶりな角型だが、ここではそれを立道さんがサンフランシスコの「タルティーヌベーカリー」で出会って魅了されたチョコレートアーモンドカスタードパイのようなサイズ感で、丸く大きめに作る。そのアイディアとセンスの秀逸さ。

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「特別なことをせずに、どれだけシンプルな構成要素で素材の味を活かしておいしくできるかというのが、うちが取り組むポイントだと思っています。シンプルであればあるほど難しさを感じます。構成要素を少なくするかわりに、ひとつひとつのものをじっくり考える時間をおきたいなと思っていて」

たとえば、甘さ。POMPON CAKESではひとつのケーキの中で3、4種類の砂糖を使い分けている。

「焼き菓子の土台となる生地には粗製糖を使いますが、うちはあくまでケーキ屋なので、すべてを精製していない砂糖の丸くてほっこりした甘さにまとめることはしない。しっかりキレる甘さを大事にしていて、生クリームの最後には必ずグラニュー糖を加えます。そのグラニュー糖は、なるべく流通が見えるてんさい糖を選んでいます」

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<暮らしに根ざした商い>のために

以前取材した際には、ケーキの移動販売からスタートして店舗を構えるまでのお話をわくわくしながらうかがい、本にまとめるにあたって「ページが足りない!」と四苦八苦したのだが、今回お聞きしたいのは<その後の現在>だ。

「育った街を盛り上げたい、ローカルを楽しくしたいと思ってお店を始めましたが、今は日々を淡々と暮らしながら長くやっていくことの中に地元の結びつきがある、という段階に入ったという気がしています」

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「この場所の居心地の良さも含めて、毎日変わらない生活......日々、朝にケーキを作って、お店を開けて、というリズムの中で生きていくことの手応えが実感できるんです。自分の根底にあるのは、生活に根ざした商いをすること。農作物の生産者と連携しながらケーキを通して四季を伝えるということと並行して、1年間を通して同じケーキを作りつづけるという仕事に、この場所でずっと暮らしていくというリアリティを感じています」

そんなPOMPON CAKESに惹かれて、遠方からも繰り返し訪れるお客さまがいるのは幸せなことだと思う。お店の方針をあえて語らなくとも、その世界観の魅力を肌で感じとってくれる人々だ。

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立道さんはおいしさとサステイナビリティを両立させ、シンプルに徹する技術と<優しさ>を大切にしている。食べる人、つながりのある生産者、暮らしている場所。それらについて思考すること、優しくあること。

「優しいというのはすべての基本ですから。うちのようなお店にそれが欠けると、すぐケーキの味に表れてしまうと思う」

スタッフ全員に「優しくいてください」とお願いし、そのための環境を整える。時間的、精神的な余裕なしに働き続けていては、優しい人でいることが難しくなるからだ。

半年ほど前に、お店のすぐ近くに「ポンポンパントリー」という、POMPON CAKESで使っている素材やナッツの量り売り、焼き菓子のつめあわせ、スタッフが使っている日用品のセレクトショップを作った。

「まずは僕もスタッフもこの近辺で幸せに暮らせる状態をつくるのが一番だと思っていて。

この中で循環型の社会を作りたい。日本では飲食店の地位はまだまだ高くないんですが、うちで働いたらずっと働けるとか、未来があるとか、心理的、精神的な安心感を作りたい。

それが今の夢であり、これから向かっていこうとするところです」

こういうお店の存在が、ローカルタウンに小さな希望をもたらすのだと思う。日常と特別のあいだ、バースデーのようなアニバーサリーではなく、今日は仕事で頑張ったからちょっと自分を褒めてあげたい、というような時にふさわしいそのケーキは、人生の友人だ。

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POMPON CAKES(ポンポンケークス)
神奈川県鎌倉市梶原4-1-5
TEL 0467-33-4746
11:00~18:00 定休日:水木休

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川口葉子
ライター、喫茶写真家。
絶望的な方向音痴。地図を見るときは必ずぐるぐる回してしまう。
著書に『鎌倉湘南カフェ散歩』『京都カフェ散歩』(以上、祥伝社)『東京の喫茶店』『街角にパンとコーヒー』(以上、実業之日本社)『本のお茶』(角川書店)『コーヒーピープル』(メディアファクトリー)他多数。
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