江の島への近道 湘南モノレール株式会社

第二の丘陵を攻めろ(湘南深沢駅~片瀬山駅)

谷底にある湘南深沢駅の進行方向には、緑に覆われた次なる山が立ちはだかっていた。駅を出た車体が上昇を始める。モノレールは幅の狭い尾根筋を辿りながら標高を上げてゆく。懸垂式なので足元が広範囲に見渡せ、自分のいる位置関係や周辺の凸凹地形が把握しやすい。モノレールの走る痩せ尾根は、丘陵地から伸びる「龍の尻尾」のようにも思えた。

画像11.jpg湘南深沢駅から目白山下駅までの凸凹地形図(カシミール3Dを使って作成)。湘南深沢駅を出たモノレールが痩せ尾根の稜線を辿り鎌倉山へ至る様子が分かる

坂に挑む加速時にもモーター音が気にならないのは、モーターは上部車輪近くに収納されているからだろう。不快な振動もなくモノレールは一直線に、そして意を決したように静かに立ちはだかる山へと向かってゆく。

「今度の山は手強そうだ」

そう言うと、隣にいた友人がゴクリと唾をのみ込んだ。地図で確認すると前方に見える山は鎌倉山のようだ。

画像12.JPG
起伏ある地形に合わせ、軽快に降下と上昇を繰り返すモノレール

「あれは鎌倉山だ」

「結婚式とかで出てくるヤツだいね」

友人は短絡的にローストビーフが頭に浮かんだのだろう。車体は鎌倉山に穿たれたトンネルへと吸い込まれてゆく。運転台から前方を見ていると、まさに車体が浮いているかの如しで、宇宙空間を浮遊する小惑星に開いた穴を軽快にくぐり抜けるミレニアム・ファルコン号のようで、コックピット(運転席)にエールを送りたくなる。

長いトンネルを抜けると、そこは谷間だった。モノレールは大きく蛇行しながら谷底へ向かって降下を始めた。車窓からは遊水池や蛇行する川が確認できた。今いる谷の名が気になり、地図で確認すると交差点の名に「赤羽」の文字があった。赤土(関東ローム層)に覆われた、泥はねの多い土地柄だったのかもしれない。モノレールは川の近くに造られた西鎌倉駅に着いた。もう一度地図で確認すると、駅周辺は二つの川の合流地点にも見える。

西鎌倉駅を発ったモノレールは再び上昇に転じ、蛇行しながら次なる山の頂を目指しているようだ。両側に崖が迫り、まるで切通しのような地形だ。人工的な谷間に見えるが、モノレールが築かれたルートには元々自然の谷間が存在したと推測する。なぜなら足元の木々が繁る隙間に小さな川の流れが見て取れたからだ。「下を向いて歩こう」が地形マニアの合言葉であるが、懸垂式モノレールは見事にその期待に応えてくれる乗り物だ。はるばる乗りに来る価値は十二分にあると思う。

車体は地形に寄り添うようにグングンと高度を上げ、再びトンネルかと想像したが、山頂手前で、町に寄り添うような片瀬山駅に停車した。これまで町を見下ろしてきたのに、車窓と同じレベルに日常風景があるのが何とも不思議だった。道路を歩く女子高生や駐車場で煙草をふかすサラリーマンと目が合わないように気をつける。

画像13.JPG片瀬山付近では、モノレールは周辺の町と同じレベルを走る

LINE
Twitter
facebook
google+
hatenablog
皆川典久ポートレート
皆川典久
東京スリバチ学会 会長
上州の田舎町から憧れの東京に就職で上京し、「東京人」にバカにされないようにと歩き回っていたら、都心には谷間や窪地が多いことに気づく。自分にとっては不思議に思えた谷間や窪地をその第一印象から「スリバチ」と勝手に名付け、東京スリバチ学会を設立したのが2003年。以来、地形好きな変人たちを誘ってフィールドワークと記録を続けている。2012年に『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』(洋泉社)を上梓。自分と同類の地形マニアが意外にも多いことに勇気づけられ現在に至る。合言葉は「下を向いて歩こう」。
著者のご紹介
mr.ブラーン
佐藤淳一ポートレート
乗らずにいられない、懸垂式モノレールの魅力
佐藤淳一
ドボク+動物のかけもち写真家
宮田珠己ポートレート
湘南モノレールはどのぐらいジェットコースターなのか
宮田珠己
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
宮田珠己(続編)ポートレート
5つの面白レールを1日で。ゆかいなのりもの大冒険!
宮田珠己(続編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
村田あやこポートレート
路上に潜む異世界を求めて ー湘南モノレール沿線 路上園芸探索ー
村田あやこ
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(続編)ポートレート
湘南モノレールから歩いていける森巡り
村田あやこ(続編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(変形菌編)ポートレート
ルーペの向こうのちいさな世界
村田あやこ(変形菌編)
散歩と植物好きの会社員
太田和彦ポートレート
大船で飲む
太田和彦
作家。旅と酒をこよなく愛する
八馬智ポートレート
土木構造物としての湘南モノレール鑑賞術
八馬智
ドボクの風景を偏愛する都市鑑賞者
西村まさゆきポートレート
湘南モノレールの昔と今を比べてみる
西村まさゆき
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(続編)ポートレート
開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅
西村まさゆき(続編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
大船ヨイマチ新聞ポートレート
よい街 オーフナ
大船ヨイマチ新聞
大船のフリーペーパー。昼は「良い街」夜は「酔い街」。
皆川典久ポートレート
地形マニアと鉄ちゃんの凸凹乗車体験記〜湘南モノレールに乗って〜
皆川典久
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
皆川典久(続編)ポートレート
湘南モノレールに乗らずに
皆川典久(続編)
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
能町みね子ポートレート
ほじくり湘南モノレール
能町みね子
肩書きに迷いつづけ、自称「自称漫画家」。散歩好き。
ドンツキ協会ポートレート
ドンツキクエスト in 湘南モノレール
ドンツキ協会
ドンツキ協会は東京の路地の町、向島を拠点に、袋小路『ドンツキ』の研究に取り組む団体。
大谷道子ポートレート
湘南モノレール運転士インタビュー 「運転する人どんな人」
大谷道子
ライター・編集者。
井上マサキポートレート
湘南モノレールの「まっすぐ路線図」を鑑賞する
井上マサキ
路線図を鑑賞するライター
鈴木章夫ポートレート
湘南モノレールバー人図鑑
鈴木章夫
誰かをちょっとだけびっくりさせるのが幸せ。かまくら駅前蔵書室(カマゾウ)室長
二藤部知哉ポートレート
ソラdeブラーンdeラーン
二藤部知哉
沿線在住のんびりブラーンランナー
いのうえのぞみポートレート
湘南フォトレール カメラを持って湘南モノレールに乗ろう!
いのうえのぞみ
モデル・タレントで世界一周を目指すカメラマン
大村祐里子ポートレート
フィルムdeブラーン
大村祐里子
フィルムカメラをこよなく愛する写真家
川口葉子ポートレート
モノレールdeカフェ散歩
川口葉子
都市散歩と喫茶時間を愛するライター、喫茶写真家。
松澤茂信ポートレート
湘南別視点ガイド
松澤茂信
東京別視点ガイド編集長。珍スポットとマニアのマニア。
川内有緒ポートレート
湘南トライアングルをめぐる旅
川内有緒
ノンフィクション作家
田中栄治ポートレート
MonoTube
田中栄治
地上と空のスピード感を追い求めている素人カメラマン
三土たつおポートレート
本物の車内アナウンスが楽しすぎた。
三土たつお
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
杉浦貴美子ポートレート
食べる!湘南モノレール -湘南「地形菓子」制作奮闘記-
杉浦貴美子
地図・地形好きライター
モノ喜利(井上マサキ)ポートレート
モノ喜利
モノ喜利(井上マサキ)
めざせ!最優秀ブラーン賞
モノ散歩ポートレート
モノ散歩
モノ散歩
沿線の魅力が集結!
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)ポートレート
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)