江の島への近道 湘南モノレール株式会社

第一の丘陵を目指せ(大船駅~湘南深沢駅)

大船駅から見える白い観音様も気になっていたので少し早めに現地入りして訪ねてみることにした。駅裏の急な坂を上ると大船観音が微笑んでいた。白く輝く半身像の観音様は、自分が大好きな建築家の坂倉順三と吉田五十八が設計に絡んでいるというのも驚きだった。胎内のような内部空間をお参りし、外へでると大船の町が一望できた。海は見えなかったが、緑に包まれた丘陵が点在し、この地特有の凸凹地形が手に取るように分かった。この複雑な地形をモノレールがどのように克服しているのか、乗車前から期待が高まる。

待ち合わせの時間に大船駅のモノレール改札へ行くと、30年ぶりの高校時代の友人が、すっかりオヤジ化して佇んでいた。猫背のシルエットは高校の時と変わりない。声をかけた友人からの第一声は、「おー!久しぶり!老けたんね」だった。それはお互い様である。「おー変わらないね」が第一声の決まり文句だろ。

画像2.JPG大船駅の湘南モノレール改札前。「しょもたん」もお出迎え!

SUICAは使えないことを伝え、チケットを買おうとすると、友人が聞いてきた。

「あれ、大船観音には寄らないん?吉田五十八が設計にたずさわったらしんさ」

「さっき見てきちゃったんだ。高崎の白衣観音みたいな全身像じゃないよ。時間に余裕があったら帰りにでも寄ってみない?」

「なんだ。行ったべーなんかい?」

「それ群馬弁だよ」

「失礼。行ったばいなんかい?」

それもまだ群馬弁である。改札を抜けると3両編成の車両がホームに入っていた。足元が浮いているところが何とも奇妙な印象だ。2人して上部構造に目をやる。湘南モノレールは「懸垂式」という形式で、車体を上部のレールから吊るのが特徴だ。モノレールにはもう一つ「跨座式」というものがあり、羽田空港へと向かう東京モノレールがその代表事例だ。

画像3.JPG入線した懸垂式の湘南モノレールにざわめく観光客

「懸垂式のメリットは雪でも走行が可能と聞いていたけど、なるほど車輪とレールがカバーで保護されてるんね。これなら車輪がスリップするリスクも軽減できらいね。」

乗り鉄の友人は分析的だ。元鉄ちゃんとして負けじと疑問を投げかけてみた。

「上部レールが鉄でできているけど、レールがコンクリートの跨座式に比べると鉄の熱伸びに配慮が必要なんじゃないかな?」

「鉄とコンクリートの熱膨張係数はほぼ同じだよ。常識だよ。知らないの?鉄ちゃんなのに。」

いちいちムカつく奴だ。鉄ちゃんは概して説明好きだが、建築家の理屈っぽさが加わり、扱いづらいったらありゃしない。話題を変えてみた。

「密着式の連結器が運転席上部にあるのも独特だね」

「連結の接点は懸垂の支点近くにしておかないと、捻じれが生じ連結器に負荷がかかるからなんさ」

「それじゃあ車輪の近くが最も合理的ってことだね。横揺れする車体だと連結器が捻じれないかな?いっそのこと連結器を車体に付けるんじゃなくて、レールをカバーする箱内にコンシールドする工夫があってもいいんじゃないかな?」

「そんじゃメンテナンスがよいじゃねんさ」(訳:それではメンテナンスが楽じゃないよ)

「固定編成だから日常的には点検不要なはずだよ。それでも鉄ちゃん?」

画像4.JPG運転席の後ろはいつも鉄ちゃんでいっぱいだ

乗り遅れそうになり車両に駆け込む(よい子は駆け込まないでね)。先頭車両の運転台のすぐ後ろを陣取ることにした。父と小学生の親子連れがすでに運転台の窓にはり付いていた。発車ベルが止み、車体が静かに動き始める。スムーズでなかなかの加速だ。カタパルトから発艦する艦載機のように、足元が開放された。レールが頭の上にあるので足元直下に日常風景が広がっているのが何とも奇妙で新鮮だ。駅前に停車する車やバスの上を軽々と飛行するかのようだ。振り返ると大船観音が恨めしそうにこちらを見ていた。

画像5.JPG大船駅を後に出発進行!大船観音が恨めしそうだ

大船駅を発ったモノレールは優雅なS字カーブを軽快に走り抜け、車体がカーブに合わせて右へ左へと大きく傾く。カーブでの自信みなぎる加速にぞくぞくする。モノレールならではの機動性に二人して思わず「おーっ!」と声をあげてしまった。

「ゴムタイヤ特有の加速感がたまんないんね。カーブで車体が振られたけど、遠心力を計算してレールにカントが付けられてるんかね?それとも懸垂の軸にヒンジがあるんかね?」

友人は乗車中も分析的だ。運転席越しに進行方向を眺めると、桁を支える支柱がリズミカルに後方へと流れてゆく。どの支柱も場所や地形に応じた出で立ちで、土木構造的にも興味深かった。横須賀線を跨ぎ、富士見町駅に着く手前、草に覆われた廃線跡を車窓から発見できた。

画像6.JPGジェットコースターのように軽快に疾走するモノレール

画像7.JPG車窓から一瞬見える廃線跡

画像8.jpg大船駅から湘南町屋駅までの凸凹地形図(カシミール3Dを使って作成)

画像9.jpg
1960年頃の同じ範囲の地形図(カシミール3Dを使って作成)。車窓から見えた廃線跡はかつての「国鉄大船工場」への引き込み線だったことが分かる。モノレールが建設される以前は「京浜急行専用」という専用道路だった様子も描かれている。

富士見駅の相対式ホームを出発すると、前方に緑に包まれた丘陵地が見えてきた。車体は緩やかに上昇を始める。正面を遮る丘陵は向かって右側が岬状になっていた。丘陵突端に何があるか気になり地図を確認する。北野神社が祀られているらしい。モノレールはトンネルではなく、丘陵の裂け目を軽々と越えてゆく。峠を越える瞬間、車窓の両側に目を配る。ほぼ同じ標高の丘陵断面が見て取れたので、自然の谷間ではなく人工的な切通しだと判断する。露出した岩肌の色から凝灰岩だろう。

画像10.JPG
稜線の切通を軽快に越えるモノレール

「最初の山は何てことなかったんね」

山国グンマーの友人は軽口をたたく。丘陵の裏には別世界が広がっていた。湘南町屋駅の後方には広大な沖積平野が広がり、圧巻の近代的な工場群が視界を埋めつくしていた。日本経済を牽引する壮観でエリートな光景だ。

湘南町屋駅を出発したモノレールは一旦上昇した後、一直線に低地へと降りてゆく。車両の前方が傾き、急降下する航空機のように速度が増す。谷底の地名を地図で確認すると「深沢」とあった。幾筋もの川が集まる場所に違いないと思い、車窓から目を凝らすと幾筋かの水路の存在が確認できた。

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皆川典久
東京スリバチ学会 会長
上州の田舎町から憧れの東京に就職で上京し、「東京人」にバカにされないようにと歩き回っていたら、都心には谷間や窪地が多いことに気づく。自分にとっては不思議に思えた谷間や窪地をその第一印象から「スリバチ」と勝手に名付け、東京スリバチ学会を設立したのが2003年。以来、地形好きな変人たちを誘ってフィールドワークと記録を続けている。2012年に『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』(洋泉社)を上梓。自分と同類の地形マニアが意外にも多いことに勇気づけられ現在に至る。合言葉は「下を向いて歩こう」。
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