江の島への近道 湘南モノレール株式会社

#10 「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの史跡を訪ねる(義時法華堂跡と大江広元の墓)

 前回は、鎌倉時代の北条執権屋敷跡の宝戒寺を訪ねた。『鎌倉殿の13人』の中心舞台とも言える場所であった。今回は、『鎌倉殿の13人』の主人公・北条義時の墓などを訪ねることにする。

 宝戒寺の門前からバス通りを北東に少し歩くと、信号のある交差点の角に「筋替橋」と記された石碑が立っているが、橋は見当たらない。道に対して斜めに架かっていたという「筋替橋」は、江戸時代に観光名所として選ばれた「鎌倉十橋」の1つだったが、現在は暗渠となり、橋は消滅しているのである。

kamakuraden_10_01.jpg「筋替橋」の案内碑

 「筋替橋」の石碑のところから路地に入り、道標に従って「頼朝の墓」を目指す。その途中、清泉小学校の敷地の角に「大蔵幕府旧跡」という案内の石碑が立っているので、足を止めて見てみることにする。

kamakuraden_10_02.jpg「大蔵幕府旧跡」の案内碑

 「大蔵幕府」とは何かと言えば、頼朝が屋敷を構えた場所である。頼朝が政権を樹立すると、頼朝屋敷は自然と政(まつりごと)が行われる場所になっていった。この頼朝屋敷で機能した政庁を場所の地名から「大蔵幕府」と呼んでいる。
 ここで、なぜ「鎌倉幕府」旧跡ではなく、わざわざ「大蔵幕府」と呼ぶのか?という疑問がわくかもしれないが、これにも理由がある。
 あまり知られてないと思われるが、およそ140年続いた鎌倉時代の間に、政治の中枢である政庁は、2度引っ越しが行われているのである。
 鎌倉時代初期には、この場所(頼朝屋敷)に政庁が置かれたが、3代将軍・実朝の暗殺によって源氏の血筋が途絶え、また、頼朝の妻・政子が亡くなると、1225年、北条家へと権力が移ったことを誇示するかのように、北条執権邸に近い場所へと政庁の場所も移された。
 現在、若宮大路と小町大路に挟まれた路地に面して、「宇都宮辻子幕府跡」「若宮大路幕府跡」という石碑が立っている。ぜひ探して見て欲しい(※)。

 さて、話を『鎌倉殿の13人』に戻すと、「大蔵幕府旧跡」のすぐ北側の丘の上に、一般に「頼朝の墓」と呼ばれている石塔がある。わざわざ「と呼ばれている」と書いたのは、この石塔自体は江戸時代の薩摩の殿様(島津重豪)が立てたものであり、そこまで歴史が古いものではないからである。とはいえ、元々、この場所に頼朝の法華堂が建っていたのは間違いなく、頼朝の遺体が付近に埋葬されているものと考えられる。石塔の史跡としての価値に関わらず、やはり敬虔な気持ちでお参りしなければなるまい。

kamakuraden_10_03.jpg源頼朝の墓

 そして、今回のメインの目的地である義時の法華堂跡は、この「頼朝の墓」の東隣の丘にある。
 石段を下り、石段に向かって右手の細道を入っていくと、間もなく「島津忠久の墓」「大江広元の墓」「北条義時の墓」と道標が出ている。このうち、大江広元と北条義時が『鎌倉殿の13人』であることは、もう皆さんご承知の通りである。
 道標に従い石段を上った先に、「史跡法華堂跡(源頼朝墓・北条義時墓)」という案内板がある。案内板には、この場所に義時が埋葬されたというのは『吾妻鏡』に記述されており、2005年に行われた発掘調査で建物跡が確認され、『吾妻鏡』の記述が裏付けされたとの説明がある。

kamakuraden_10_04.jpg義時法華堂跡

 この案内版の奥の平場には、調査で発掘された建物跡の範囲を囲うロープが張られており、さらにその奥に見える鳥居をくぐり、石段を上った先に大江広元の墓がある。

 大江広元は、『鎌倉殿の13人』の1人でもある兄の中原親能(ちかよし)とともに文官として幕政を支えた。兄弟で姓が違うのは、広元は公家の大江家の生まれであり、同じく公家の中原家に養子に出されたからである(広元も当初は中原姓を名乗っており、大江姓を名乗ったのは晩年になってから)。
 実は、頼朝を最初から支えていたのは兄の親能のほうだったのだが、広元のほうが有名なのは、広元が幕府の政所別当(別当=長官)に就任し、頼朝の存命中から死後に至るまで幕府の屋台骨を支え続けた功績によるところが大きい。
 ちなみに、広元の四男・毛利季光は相模国毛利庄(現在の厚木市)を領地とし、承久の乱の功で安芸国(現・広島県)吉田庄に領地を得て、やがてその子孫は、戦国大名の毛利氏となり、大発展を遂げる。
 さらに、この戦国大名の毛利氏の子孫は、江戸時代には長州藩の殿様となり、明治維新期には、長州藩の藩士たちが薩摩藩と結んで、江戸幕府を終焉に導いた。
 鎌倉幕府草創期に幕閣の宿老として「武士の世」を創り出した広元の子孫が、数百年の時を経て「武士の世」に引導を渡す役割を果たしたのには、歴史の皮肉を感じざるをえない。

kamakuraden_10_05.jpg大江広元の墓

 さて、石段の上には、3つのやぐら(横穴式墳墓)がある。中央が広元、左が毛利氏始祖の季光、そして、右が島津氏の祖とされる島津忠久のものであるという。

※ 「宇都宮辻子幕府跡」と「若宮大路幕府跡」は距離が近く、2回引っ越しが行われたとみる説と、改築が行われたにすぎないとみる説がある。

【地図】
https://www.google.com/maps/d/edit?mid=1ELCW2J6nG2U5G1OxoIcexyU2oSXR11xv&usp=sharing

LINE
Twitter
facebook
google+
hatenablog
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)ポートレート
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト。
現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。テレビ・ラジオにも多数出演。過去にNHK学園、玉川高島屋カルチャーにて鎌倉散策講座の講師を担当。2020年1月には、初の小説作品『ホワイト・ライオン』(幻冬舎)を上梓し、各種メディアで取り上げられる。その後、コロナ禍の中「湘南モノレール全線開通50周年記念誌」の執筆・編集にも取り組んだ。
著者のご紹介
mr.ブラーン
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)ポートレート
「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの地を歩く
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト
佐藤淳一ポートレート
乗らずにいられない、懸垂式モノレールの魅力
佐藤淳一
ドボク+動物のかけもち写真家
宮田珠己ポートレート
湘南モノレールはどのぐらいジェットコースターなのか
宮田珠己
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
宮田珠己(続編)ポートレート
5つの面白レールを1日で。ゆかいなのりもの大冒険!
宮田珠己(続編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
村田あやこポートレート
路上に潜む異世界を求めて ー湘南モノレール沿線 路上園芸探索ー
村田あやこ
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(続編)ポートレート
湘南モノレールから歩いていける森巡り
村田あやこ(続編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(変形菌編)ポートレート
ルーペの向こうのちいさな世界
村田あやこ(変形菌編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(大船系植物編)ポートレート
「大船系」植物と玉縄桜~知っていますか?大船生まれの植物たち~
村田あやこ(大船系植物編)
太田和彦ポートレート
大船で飲む
太田和彦
作家。旅と酒をこよなく愛する
八馬智ポートレート
土木構造物としての湘南モノレール鑑賞術
八馬智
ドボクの風景を偏愛する都市鑑賞者
西村まさゆきポートレート
湘南モノレールの昔と今を比べてみる
西村まさゆき
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(続編)ポートレート
開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅
西村まさゆき(続編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(車両基地編)ポートレート
大人のモノレール車両基地見学記
西村まさゆき(車両基地編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
大船ヨイマチ新聞ポートレート
よい街 オーフナ
大船ヨイマチ新聞
大船のフリーペーパー。昼は「良い街」夜は「酔い街」。
皆川典久ポートレート
地形マニアと鉄ちゃんの凸凹乗車体験記〜湘南モノレールに乗って〜
皆川典久
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
皆川典久(続編)ポートレート
湘南モノレールに乗らずに
皆川典久(続編)
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
能町みね子ポートレート
ほじくり湘南モノレール
能町みね子
肩書きに迷いつづけ、自称「自称漫画家」。散歩好き。
ドンツキ協会ポートレート
ドンツキクエスト in 湘南モノレール
ドンツキ協会
ドンツキ協会は東京の路地の町、向島を拠点に、袋小路『ドンツキ』の研究に取り組む団体。
大谷道子ポートレート
湘南モノレール運転士インタビュー 「運転する人どんな人」
大谷道子
ライター・編集者。
井上マサキポートレート
湘南モノレールの「まっすぐ路線図」を鑑賞する
井上マサキ
路線図を鑑賞するライター
井上マサキ(ぶら喜利)ポートレート
ぶら喜利
井上マサキ(ぶら喜利)
路線図を鑑賞するライター
鈴木章夫ポートレート
湘南モノレールバー人図鑑
鈴木章夫
誰かをちょっとだけびっくりさせるのが幸せ。かまくら駅前蔵書室(カマゾウ)室長
二藤部知哉ポートレート
ソラdeブラーンdeラーン
二藤部知哉
沿線在住のんびりブラーンランナー
いのうえのぞみポートレート
湘南フォトレール カメラを持って湘南モノレールに乗ろう!
いのうえのぞみ
モデル・タレントで世界一周を目指すカメラマン
大村祐里子ポートレート
フィルムdeブラーン
大村祐里子
フィルムカメラをこよなく愛する写真家
川口葉子ポートレート
モノレールdeカフェ散歩
川口葉子
都市散歩と喫茶時間を愛するライター、喫茶写真家。
松澤茂信ポートレート
湘南別視点ガイド
松澤茂信
東京別視点ガイド編集長。珍スポットとマニアのマニア。
川内有緒ポートレート
湘南トライアングルをめぐる旅
川内有緒
ノンフィクション作家
田中栄治ポートレート
MonoTube
田中栄治
地上と空のスピード感を追い求めている素人カメラマン
三土たつおポートレート
本物の車内アナウンスが楽しすぎた。
三土たつお
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
三土たつお(続編)ポートレート
湘南モノレール風景図鑑
三土たつお(続編)
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
杉浦貴美子ポートレート
食べる!湘南モノレール -湘南「地形菓子」制作奮闘記-
杉浦貴美子
地図・地形好きライター
今泉慎一ポートレート
〝もののふ隊〟駅前砦にあらわる
今泉慎一
旅・歴史・サブカル好き編集者兼ライター
ワクサカソウヘイポートレート
車窓の冒険
ワクサカソウヘイ
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
ワクサカソウヘイ(夜編)ポートレート
夜になると 湘南モノレールは
ワクサカソウヘイ(夜編)
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
半田カメラポートレート
大船観音の劇的楽しみ方
半田カメラ
大仏写真家
遠藤真人ポートレート
ジェットにGO!GO!!
遠藤真人
モノレールに敬礼!鉄道写真バンザイ!
石川祐基ポートレート
湘南モノレール「もじ鉄」旅
石川祐基
グラフィックデザイナー。鉄道と文字が好きな、もじ鉄。
大竹聡ポートレート
腰越で飲む
大竹聡
酒と酒場をこよなく愛するフリーライター
荻窪圭ポートレート
道標をきっかけに江の島まで古道を辿る
荻窪圭
老舗のデジタル系ライター。古道・古地図愛好家。
松本泰生ポートレート
湘南モノレールが見える階段を探して
松本泰生
階段研究家
大山顕ポートレート
湘南モノレールに乗って体長2kmのヤギを描く
大山顕
ドボクフォトグラファー
田代博ポートレート
湘南モノレールと富士山
田代博
富士山遠望鑑定士。ダイヤモンド富士ハンター。
北尾トロポートレート
町中華タウン大船をゆく
北尾トロ
町中華探検隊隊長
喜清みずほポートレート
失われた 記憶をたどる まぼろしの遊園地「江の島龍口園(えのしまりゅうこうえん)」
喜清みずほ
鎌倉観光ボランティアガイド
宮田珠己(龍口寺編)ポートレート
龍口寺の龍と、謎の仏像
宮田珠己(龍口寺編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
加門七海ポートレート
江の島怪談闇歩き
加門七海
作家
中野純ポートレート
江の島怪談闇歩き
中野純
負の走光性がある、闇歩きガイド
髙山英男ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
髙山英男
中級暗渠ハンター(自称)。
吉村生ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
吉村生
暗渠マニアックス
宮田珠己(空の駅編)ポートレート
湘南江の島駅は、日本一高い駅だった!?〜日本一、地上高が高い駅はどこか?
宮田珠己(空の駅編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
西村まさゆき(駅名編)ポートレート
湘南モノレール「駅名」ルーツをたどる旅
西村まさゆき(駅名編)
石山蓮華ポートレート
いい線いってる夜
石山蓮華
電線愛好家
中島由佳ポートレート
いい線いってる夜
中島由佳
ゴムホースマニア
加賀谷奏子ポートレート
いい線いってる夜
加賀谷奏子
サンポー編集部ポートレート
しょもたんの完全一致を探す散歩
サンポー編集部
散歩の横好き集団
中野純(鎌倉大横断編)ポートレート
鎌倉大横断ミッドナイトハイク
中野純(鎌倉大横断編)
負の走光性がある、闇歩きガイド
森川天喜ポートレート
湘南モノレール全線開通までの全記録
森川天喜
フリージャーナリスト
しょもたんポートレート
モノレールの運転士さんや駅員さんの話をきいてみよう!
しょもたん
湘南モノレールのマスコットキャラクター。
森川天喜(今昔写真撮影隊)ポートレート
湘南モノレール沿線 今昔写真撮影隊!
森川天喜(今昔写真撮影隊)
フリージャーナリスト
モノ喜利(井上マサキ)ポートレート
モノ喜利
モノ喜利(井上マサキ)
めざせ!最優秀ブラーン賞
ヴッパータール空中鉄道座談会ポートレート
ヴッパータール空中鉄道について思いっきり語る
ヴッパータール空中鉄道座談会
ヴッパータール空中鉄道に乗車した人たち
モノ散歩ポートレート
モノ散歩
モノ散歩
沿線の魅力が集結!
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)ポートレート
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)