江の島への近道 湘南モノレール株式会社

第4回

 名越切通しは、鎌倉最高の名闇のひとつ。切通しの土の壁が街明かりを遮断し、とくに第3切通しは、頭上に葉が生い茂る季節には、ほとんど真っ暗闇になる。このあたりは、やぐらのマンションという感じのまんだら堂やぐら群や、ミニピラミッド感のある謎の石廟をはじめ、見どころが多い。石切り場跡の岩壁が続くお猿畠の大切岸は、闇にじんわり浮かぶ岩壁の表情が豊かで見飽きない。

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 名越切通しから先は鎌倉市と逗子市の境界付近を東進する。大切岸からパノラマ台方面へ向かうと、右へ逸れる踏み跡があるのでそれを辿り、水道山のピークを経て展望広場へ。パノラマ台もいいが、大人数の時はこっちのほうが広くていい。舗装された広場にレジャーシートを敷いて寝っ転がれる。
 闇の中で仰向け寝するとよく、闇に自分が持ってかれそうになる。自分とまわりの境界が曖昧になって、自分が闇に溶け出していくような感じ。それが好きで、こうしてよく、20分程度の仰向け寝タイムを設ける。それ以上やると、ホントに持ってかれちゃいそうで、ちょっとヤバい。

 まだまだ行こう。どんどん行こう。鎌倉逗子ハイランドを下り、公園灯がなくて暗くていい感じの久木大池公園へ。ここから「やまなみルート」という、送電鉄塔の真下を潜り放題のハイキングコースが始まる。

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 やまなみルートは、今夜のコース中、最も山深い。池畔からガーッと登ったあとは、ゆるやかな尾根道を快適に飛ばして、やがて夜明けの十二所(じゅうにそ)果樹園の展望台に着いた。標高150mに満たないが、本日の最高地点だ。ここでのんびりご来光を待つ。暗い西側には、亡霊のようにぼんやりと白い富士山が見える。
 実はこのミッドナイトハイクは、太陽を迎えに行くツアーでもある。太陽も月も星も皆、東からやってくる。だから西から東に向かって歩けば、昇ってくる太陽や月や星に、ほんの少し早く会えるのだ。片瀬山駅近くの藤沢・鎌倉の市境から、標高差を無視すると、十二所果樹園展望台では日の出が23秒早くなる(標高を加味すると、1分17秒ほど早くなる)。

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 遥か房総の山の上が、赤くなってきた。まるで火山のマグマが燃えたぎっているみたいに見える。やがて、山の端からばっちりくっきり太陽が出現した。雲ひとつない、見事なご来光だ。月の出と違って日の出は、あっという間に眩しくて見ていられなくなる。なので今度は太陽に背を向けて、箱根・丹沢の山々を従えた富士山を拝む。亡霊のようだった富士山が、どんどん実体化してきた。

 日が昇ると、ついさっきまで闇の中を歩いていたという現実が、夢のように消え去っていく。すべてがリセットされてまったく新しい世界が始まる。室町時代のナイトハイカーも、同じ気分になったに違いない。

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 果樹園のたくさんの梅が見事に咲いていて、桃源郷のようだ。梅の木にタイワンリスがいる。もうすっかり、昼行性のリスの時間だ。
 果樹園から少し歩くと、いよいよ鎌倉市最東端だ。この先、やまなみルートは横浜市に入って結構な崖際を辿り、千光寺の脇に出るが、崩壊しているところがあって、ちょっとよろけたりするとヤバい。雨後で徹夜明けの団体にはリスキーと判断し、東朝比奈二丁目の住宅街へ下るエスケープルートを選んだ。かなりの急下降の道だが、なにかあっても大事に至ることはない。
 少し難儀する人もいたが、皆、自力で下りきり、朝の住宅街をチャッチャ歩いて、そうして遂に京急逗子線六浦駅に到着! 鎌倉大横断を完遂した。「鎌倉を端から端まで歩いた!」と他人に自慢しても、「え? んぁあ、そう......」と、この上なく微妙なリアクションをされる可能性100%だが、なかなかの達成感を胸に、各々家路に就いたのだった。

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中野純(鎌倉大横断編)
体験作家、闇歩きガイド。「少女まんが館」共同館主。地獄のファーストレディ、奪衣婆を偏愛。霞ならなんでも食う。おもな著書に『「闇学」入門』(集英社新書)、『闇と暮らす。』(誠文堂新光社)、『庶民に愛された地獄信仰の謎』(講談社+α新書)、『東京洞窟厳選100』(講談社)、『闇を歩く』(光文社 知恵の森文庫)、『月で遊ぶ』(アスペクト)、『少女まんがは吸血鬼でできている』(大井夏代との共著、方丈社)、『東京サイハテ観光』(写真/中里和人、交通新聞社)などがある。
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