江の島への近道 湘南モノレール株式会社

第四章 新たな絵葉書

昭和のはじめ、現在の藤沢市片瀬 龍口山の山上に、わずか数年営業したという 遊園地「江の島龍口園」。

不明とされてきた開業時の様子や経営会社は判明した。
けれど、当時の新聞や絵葉書が示す情報を、迷路のような現在の姿にあてはめることが難しい。
遊園地は、山上でどのように展開していたのだろう...

龍口園は、相模湾を一望する高台にあった
龍口園は、相模湾を一望する高台にあった

現在の跡地。訪れる人は少ない(片瀬山公園)
現在の跡地。訪れる人は少ない(片瀬山公園)

あれこれ空想をめぐらせていたある日、別の調べ物で立ち寄った横浜の資料館の収蔵目録に思いがけず「龍口園」の文字を見つけ、閲覧希望を出した。
絵葉書のタイトル、「江之嶋龍口園内の一部」は、これまでに全く観たことのないものだった。

緊張の時間が過ぎ、差し出された数枚の絵葉書に写っていたのは、当時の園内を俯瞰した光景。

「ここにあった...」

静かな閲覧室で絵葉書を凝視しながら涙ぐむ中年女性は、さぞかし奇異にみえたにちがいない。

さっそくこれらの絵葉書に写る現場を訪ね、当時と今の様子を比べてみようと思う。

龍口山へ

龍口山に向かうため、大船から湘南モノレールに乗った。
江の島側の終点「湘南江の島駅」は、かつて龍口園への来園者を地上から山上の遊園地に運んだ巨大エレベーター跡地の横にある。

湘南モノレールの軌道は、大船~片瀬間を結ぶ日本初の有料自動車専用道路(昭和5年開通)がもとになっているのだが、この道路敷設計画を国に申請したのが、龍口園経営の中心人物 実業家の森辨治郎(もりべんじろう)だった。
100年後に道路の上をモノレールが走っているとは、想像もしなかったろう。

ryukoen_03.jpg
湘南モノレール「湘南江の島駅」。背後が龍口山

終点、湘南江の島駅に着く。
日本一高いといわれる改札口から地上へと一気に下り、駅舎を出る。
海と反対方向に進み、すぐに現れる大きな石材店(秋元石材店)と、先にある常立寺にはさまれた敷地が、かつて龍口園の入り口があった場所だ。

ryukoen_04.jpg
現在は店舗や住居が建っている

新たな絵葉書の1枚目を見てみよう。

まさにこの場所を写したものである。
(第二章で掲載のものと同じネガからの写真だが、現像範囲が横に広くとられ解像度が上がった)

門柱の巨大さに、壁際の人たちがこびとのようなサイズで写っている。
奥にはのれんで囲まれたスペースがあり、人が座っているように見える。
前回見切れていた画面左端には、「日本一」ののぼりがあった。大きな像は、桃太郎だった。

ryukoen_05.jpg
通路奥、つきあたって右側がエレベーター乗り場
(横浜開港資料館所蔵)

次も新たな一枚。
同じく入り口付近である。

こちらはさらに写真の解像度が高く、質感が生々しい。

山上の中央部から左側へ橋のようなものが見えるが、ここは山の尾根が狭いので道幅を広げているのだろう。写真の上部左方向が、龍口園の中心部となる。

壁にある掲示板(紙?)には、催し物の予定らしきものが書かれている。
「東京大和家連中」「女道楽」「娘手踊」「浪花節」「落語」「講談」などの文字が読み取れる。
園内では、いわゆる「演芸」も提供されていたようだ。

*「女道楽」...女性の芸人が、三味線を奏でながら都都逸や小唄、踊りなどを披露し、語りとともに楽しませる芸

ryukoen_06.jpg
エレベーターには「江之島龍口園」、門柱には「江ノ島龍口園」、園が配布したチラシ(掲載無)には「江島龍口園」と表記。
どれが正式なのだろう...(横浜開港資料館所蔵)

さて、写真の右下、塀の裏側に写る平屋は、現在も同じ場所に営業する秋元石材店だ。
江戸末期創業という地域一番の老舗である。
関東大震災直後に建てられたこの住居兼店舗は、部分的な改修はあるものの、今もほぼ建設時の姿のままだと店主さんが教えてくれた。
絵葉書の建物が、現在の平屋部分にちょうど重なっている。
家の裏に巨大なエレベーターが建てられ、当時さぞ戸惑われたことだろう。

龍口園開業の3年後(昭和5年)には、エレベーターの外側をまわりこむように自動車専用道路が敷設されるのだが、上掲どちらの写真にも写りこんでいない。
道路の敷設以前に撮られたものと思われる。

では、エレベーターに乗りこんだ来園者が降り立った、山の上へ行ってみよう。

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