江の島への近道 湘南モノレール株式会社

湘南モノレールの駅名標を見てみよう

湘南モノレールと聞いて、鉄道ファンがまず思い浮かべるイメージは「懸垂式」。懸垂式とは......という説明は、もはやここで改めてする必要はないであろう。

次に鉄道ファンの中でも車両を撮影することに楽しみを見出す「撮り鉄」にとっては、空飛ぶ近未来の乗り物を追いかけるような「ダイナミック」さ。「乗り鉄」にとっては、ジェットコースターのような乗り味が「スリル」と言うように、同じ趣味の中でも湘南モノレールには普通の鉄道とはまた違ったイメージ、魅力がある。ベビベビ、ベイビベイビベイビベイビ、ベイベー。

ちなみに筆者、石川が最初に思い浮かべたイメージは「京浜急行の有料道路」だ。湘南モノレールの下を走る道路は、かつて日本初の有料道路として赤い電車でおなじみの京浜急行が管理をしていた。京急ヲタクである筆者の、世の中は京急を中心に回っているという偏愛に満ちた思考とセルフ教育の賜物とも言えよう。

そんな筆者は「京急信者」かつ「撮り鉄」でありながら「もじ鉄」でもある。「もじ鉄」とはいったい何なのか。「もじ」とはその名の通り「文字」、つまり「書体」や「フォント」のことだ。なぜ平仮名なのかは、なんとなく「文字」より「もじ」のほうが可愛いから。決してアイドルグループ「でんぱ組」と同じく平仮名+漢字の構成にしたかったからだなんて、ドルヲタ的思考ではない。とは言っていない。

それはさておき、駅名を記した看板(駅名標)や、のりば、出口などのサインに、車両の標記やロゴタイプまで......とにかく鉄道と文字は切っても切れないもの。まさにミポリンおけるWANDSの存在。それはちょっと違うか。とにかく鉄道で見ることのできる文字や、そのデザインを世界中の誰よりきっと愛していると自負する筆者が、湘南モノレールで見ることのできる「もじ鉄案件」を紹介、考察し、ただただ愛でる、決して地上波ではオンエアできないニッチな途中下車の旅が今回の目的だ。

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まずはJRの駅ビル、ルミネウィングから出発するモノレール大船駅のホームへ行ってみよう。ちなみに「ルミネ大船」ではなく「ルミネウィング」なのは、「ウィング」ブランドでショッピングセンターを運営する京急が出資しているからである......ってイケナイ、これは湘南モノレールの記事だ。この話は置いておこう。しかし何かと京急に縁がある湘南モノレールは、やはりミポリンとWANDSの関係だ。

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はじめにこの駅名標を見ていただきたい。「おおふな」と記されている文字は「新ゴ」と呼ばれるもので、JRや東京メトロに東急、京急、小田急など多くの鉄道会社が駅名標や案内サインに採用している、もじ鉄界では王道中の王道フォントだ。ちなみに「B」とは「Bold」のこと。文字の太さの種類である。スタバで言うところの「トール」や「グランデ」的なアレ。

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湘南モノレールと同じく「新ゴ」が用いられた駅名標。

懸垂式、モノレールにおける山岳トンネル、地平駅......。こんなにも特徴が多い鉄道でありながら、駅名標自体は多くの鉄道会社で見ることのできる、よくある書体だ。レイアウトもこれと言って奇をてらったものではない。ほーん、つまらん。と思うにはまだ早い。これは駅名標をはじめとする「サインシステム」の長い歴史において確立された、ひとつの完成形でもあるのだ。

駅の雑踏の中での見やすさ、読みやすさを求められる看板に「奇」はそこまで必要なく、期間限定ならまだしも、何年、何十年にも渡ってその場にあり続けるものが「どうだ! どうだ!」と自己主張をしてきたら、毎日が胃もたれしてしまうであろう。

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しかし「よくある感じね」で終わらないのが湘南モノレール。グレーのラインが湘南の海を思わせる波状になっており、両サイドには観音さまとヨットのアイコンが添えられている。大船、江の島と、地域性のあるエッセンスを注ぎながらも決して自己主張しすぎない、どちらかと言えば少し控え目でありながらも個性は捨てない絶妙なバランス。互いの良さを生かした様子は、まさにミポリンとWANDSの関係。

なるほど、素敵だ。湘南モノレールがさらに好きになった。

実はこの「少し控え目な個性」の駅名標が、11月の湘南江の島駅リニューアルによって大幅刷新。これまでとはまた違ったデザインでありながら、地域性というアプローチはそのままに「楽しさ」と「上質さ」を兼ね備えたデザインに生まれ変わる。これまでの駅名標も好きだったが、新しい駅名標はとにかくヤバイ。「奇」をてらうのではなく、「喜」に微笑む。今までの鉄道におけるサインでは見たことがないほどに、可愛くてオシャレでめっちゃ尊いのだ! 卍!

もじ鉄でなくとも気になる新しい駅名標については、デザイナーさんへの直接インタビューも含め最終回でじっくりご紹介するとして、そろそろモノレールに乗ろう。だいぶ前置きが長くなってしまったが、みなさん準備はよろしいですか? それでは終点湘南江の島駅に向かって、駅名標や案内サインなどのもじ鉄を巡る旅、スタートです! (いい朝8時風に)

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石川祐基
グラフィックデザイナー。1987年、国鉄民営化翌日、東京・阿佐ヶ谷生まれ。
アニメーション・デザイン制作会社を経て、2017年、デザイン事務所・デザイン急行株式会社を設立。
「もじ鉄 書体で読み解く日本全国全鉄道の駅名標」(三才ブックス)著者。
日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員。
Web :「もじ鉄.fun」http://mojitetsu.fun
Twitter : https://twitter.com/denshageek/
Instagram : https://www.instagram.com/mojitetsu/
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