江の島への近道 湘南モノレール株式会社

夜になると西鎌倉駅は

 私は「夜」を散歩するのが好きだ。
 たとえそこがなじみの土地であっても、闇に覆われた静かな街は、歩いているだけでエキゾチックなものを感じることができる。パスポートはいらないし、飛行機に乗る必要もないし、職場の人にお土産を買う必要もない。夜間散歩は実にコスパのよいレジャーなのである。
で、前から気になっていたのは
 「夜の湘南モノレールって、どんな感じなのだろう」
ということだ。
 湘南モノレールはご存じのとおり、胸おどる違和感に満ちた物件だ。ごく普通の住宅地や商店街の上空を裂いて車両がゴゴゴゴゴと現れる風景は、昼間の時点ですでに日常らしからぬムードを放っている。
 ということは、これが夜ともなれば、そこではさらなる異質な感触を味わうことできるのではないだろうか。その姿を、ぜひ確かめてみたい。帰宅ラッシュの過ぎた頃合いから、私は湘南モノレール沿線を歩いてみることにした。

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 おお。
 まず注目したのは、西鎌倉駅付近の歩道橋から見上げた、夜のレールだ。闇夜に浮かぶそれは、メタリックな情緒が漂っていて、妙な存在感がある。昼間にこの周辺を歩いていてもレールに目をひかれることはなかったのに。

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路上から鑑賞する夜のレールも趣がある。その姿は、まるで闇夜を這うようにして現れた妖怪。白い街灯がその胴体をかすかに照らし、なんともミステリアスである。

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 この辺りは住宅地が集中しているゾーンで、19:00頃までは帰宅民たちの姿が目立つが、夜が深まるにつれて人の影は薄くなる。街が寝静まると、レールがポイントを切り替える「ごおん」という機械音だけが駅前に響く。
 だから夜の西鎌倉駅周辺には、なんだかディストピアな空気感が漂っている。無人の街で、鋼鉄のレールが夜空を塞ぎ、信号だけが点滅を繰り返している眺めは、終末を迎えた世界のごときである。
 そんな夜ならではの景色に、存分に身を浸していると、薄い夜霧の向こうから、なにかが「ぬっ」と顔を現した。ヘッドライトを光らせる、夜の湘南モノレール車両である。

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 うーん、予想以上の迫力だ。昼間のそれとは明らかに別種である。
 深い闇の中から現れる湘南モノレールは、百鬼夜行に出くわしてしまったような、背中をゾクッとさせるものがあるのだ。さらに「いま、この物の怪を目撃しているのは、自分ひとりだけ」というシチュエーションもあいまって、鑑賞しているだけでざわざわとした寂寥感も味わうことができる。

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 やがて車両は次の目的地を目指し、こちらのことなど気にも留めずに彼方の暗がりへと去っていく。
 そして目の前に広がるのは、またしても無人の街。
 しばらくすると軋むような音が頭上から響き、やがて新たな車両が夜空を滑るようにして現れる。それがずっと夜の西鎌倉駅では繰り返されるが、それを見たり聞いたりしている者は誰もいない。

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 美しくて、寂しくて、そしてちょっとだけ不気味な世界。「銀河鉄道の夜」で描かれていた景色ってこんな感じかも、などと思う。
「夜の湘南モノレール」は、やはり異質な手触りを隠していたのだ。これから時刻は、まだまだ深まっていく。散歩をさらに続けていこう。

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ワクサカソウヘイ(夜編)
文筆業。主にルポとかコントをフィールドにしている。
主な著書に「今日もひとり、ディズニーランドで」(幻冬舎文庫)、「変な鳥ヤバい鳥どでか図鑑」(エイ出版社)、「夜の墓場で反省会」(テレビブロス)など。
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