江の島への近道 湘南モノレール株式会社

寄り道をしながら湘南モノレールを追いかける!

富士見町駅辺りでは、モノレール軌道下の市道にはバスも走り、この地域の幹線道路となっている様子が分かる。道路沿いにはお店が並び、人通りも多い。歩道を一列で歩きながらもモノレールが通過するたびに、参加者はシャッターを切っている。
前回、モノレールの車窓から見えた小高い丘に立ち寄ることにした。地図に北野神社と記された丘陵の突端のような場所だ。軌道下の道から逸れ、丘陵に近づくと大きな石の灯篭を見つけた。そこが北野神社の参道だった。石の鳥居をくぐると、何処までも続くかのような石の階段が自分たちの前に立ちはだかった。磨り減った急な石段をみんなで恐る恐る上ってゆく。杉の林に包まれた、静寂な参道は昼間でも薄暗い。先ほどまでいた大船駅前の喧騒が嘘のようだ。石段を上りながら大きく深呼吸をした。


画像5.JPG
北野神社の石の参道。何処までも続いているかのようだ


画像6.JPG
参道を文句も言わずに上る参加者たち。スリバチ学会のイベントでは階段がないと、物足りないなど不平が聞かれる


たどり着いた山頂に祀られているのは北野神社。ご存知、菅原道真(天神様)がご祭神である。だからこの丘は、地元で天神山と呼ばれている。創建は暦応年間(1338年~1342年)とのことで、江戸時代には村の鎮守として崇められ、以降大切にされている。天神様のパワーは絶大なのだ。
天神山の歴史は古く、縄文・弥生の遺跡が発掘されているだけでなく、室町時代にかけては山城があったとのこと。尾根伝いの道は、鎌倉への重要な道のひとつで、新田義貞による鎌倉攻めの洲崎古戦場も、この天神山を含んでいるらしい。


画像7.JPG山頂に祀られた北野神社の本殿


寄り道をしたが、再度モノレール軌道下の市道に戻り、上り坂を歩き始めた。丘陵の尾根筋をモノレールは「切通」で越えることを前回の記事で紹介した。その切通の手前にコンビニエンスストアがあったので休憩をすることにした。スリバチ学会の町歩きは、ガチな町歩きイベントと違って、寄り道・立ち寄りが多い。軌道にそって走行するモノレールに比べると、なんとも無駄が多く、非効率である。でもそれこそが町歩きだよね。
町歩きの途中で食べるメンチやアイスは美味しい。自分もアイスを食べながら軌道を行き来する湘南モノレールの車両を見上げる。寄り道している自分たちを、湘南モノレールが軽快な走行音とともに追い抜いて行く。ぼんやりと眺めていたら、通り過ぎる車窓から、こちらに手を振る人影が見えた気がした。ちょっとだけ感動して、応えるよう自分も手を振っていた。休憩中だったみんなも、モノレールに向かって手を振っている。微笑ましいけど、大人がやると、やはりあやしい。


画像8.JPGコンビニでの休憩中もモノレールがながめられて嬉しい


両側が崖となっている切通を歩いて越えた。歩道脇の露出した岩肌を観察した地層マニアが教えてくれた。
「灰白色に見えるから海底で堆積したシルト岩かな。シルトは砂と粘土の中間で、シルトが固結したのがシルト岩だよ」
スリバチ学会に集う人たちは、自分の得意分野の説明が好きである。一緒に歩くと、とても参考になる(ことがある)。
高台にある湘南町屋の駅を過ぎると、モノレールは一直線に谷間へと下降していた。なかなかのビュースポットである。懸垂式の湘南モノレールは跨座式モノレールに対する優位性を示すため、あえて過酷な条件の地形に挑むように建設されているらしい。最急勾配も74パーミル(0.74%)というから驚きだ。ちなみにJRの最急勾配は飯田線の沢渡駅と赤木駅間にある40パーミルである。

画像9.JPG湘南町屋駅と湘南深沢駅の間にある一直線の坂道とモノレールの軌道


坂を下りた谷の底にあるのが湘南深沢駅。深沢の地名は、水を満々と湛えた湖がこの地にあったことに由来するらしい。細長い湖は武蔵と相模の国境だったとの記録もある。縄文時代の海進期には、深沢から大船にかけて深い入江があったと地形図を見ながら想像する。
駅周辺は商店街として賑わっていた。坂下には昭和の面影を色濃く残す商店街が多いと東京などで紹介しているけど、土地の高低差と町のたたずまいの関係が、場所を変えても見られる法則性が興味深い。モノレールの上空制限で、交差点の信号機が不自然に低いのがなんかカワイイ。
(スーモの記事「猫も人も住みやすい谷間の町・商店街を中心に栄える戸越銀座)
https://suumo.jp/town/entry/togoshiginza-norihisa.minagawa/
画像10.JPG湘南深沢駅周辺の賑やかな町なみ。昭和レトロな「坂下の商店街」だ


画像11.JPG
モノレールの走行を邪魔しないよう、手が届くくらいの低い位置に設置された信号機

湘南深沢駅前の広大な空き地は、先ほど見た廃線の終点、JR東日本の大船工場があった場所だ。
鎌倉市が「第3の都市拠点」として再開発を計画しているらしい。第3 とは、鎌倉駅周辺、大船駅周辺に続く拠点と位置付けられているためで、今後の発展が注目される。
「この先に本線から分岐した車両基地があります。見に行きませんか。」
宮田さんが教えてくれた。なるほど宮田さんが一緒なら車両基地にも入れそうだ。と思ったら、車両基地は誰もが入れるフレンドリーな施設だった。建屋内には入れないが、モノレールがお腹を見せて休憩しているのが見えた。鉄分多めの人たちはみなコーフンしている。引退した車体の運転台部分(カットモデルと呼ぶらしい)が展示されていた。アイドルを囲むように、みんなが群がる。あらためてじっくりと眺めると、連結器が上部にあるため他の鉄道車両と比べると、独特のフェースである。


画像12.JPGモノレールのカットモデルに興味津々の参加者たち。スリバチ学会は鉄分が多い


車輌基地の見学を終え、地形町歩きの再会だ。いよいよ、鎌倉山へと上る坂道が始まった。上空を行き来する湘南モノレールを眺めながら、長い坂道をぞろぞろと歩いて行く。湘南モノレールは鎌倉山をトンネルで越えているので、直下の市道も軌道から離れてゆく。市道の横にある鎌倉山変電所からトンネルの入り口が見えた。トンネルへと吸い込まれてゆくモノレールを見送り、自分たち一行は鎌倉山の頂を目指すことにした。先ほどまで一緒だった湘南モノレールがいなくなると、なんだか寂しい。


画像13.JPG湘南モノレールはトンネルで鎌倉山を越えてゆく。モノレールに見送られて自分たちは山道を上る


住宅地の坂道を上ってゆくと、「鎌倉山」と彫られた石の円柱の立つロータリーにたどり着いた。石の円柱は、後で調べたら、関東大震災で倒壊した鶴岡八幡宮の三の鳥居を譲り受けたものらしい。
セレブ感がすでに漂う、このロータリーから急な坂を上った先が、憧れの住宅地・鎌倉山だ。
画像14.JPG高級住宅地「鎌倉山」への入口にあるロータリー


ちなみに鎌倉山は地形的には「山」というよりも丘陵地。鎌倉山は日本で初めての丘陵式住宅地として造成され、1928年(昭和3年)に分譲された。1930年には京急自動車専用道路が開通しアクセスも向上した。開発当初は政財界や芸能人などがこの地を買い求め、高度成長期以降に分譲が進んで、現在のような高級住宅地としてのイメージが定着した。
せっかくなのであの有名な『ローストビーフの店 鎌倉山』に立ち寄ってみた。憧れのお店の入り口は、控えめな門があるだけだったが、それが存分に格式の高さを物語っていた。門の先には広大な庭園が控え、瀟洒な日本家屋が木立の隙間から見え隠れしている。門の前で邪魔にならぬよう、みんなで記念写真を撮った。いつかは妻を連れてくるぞと心に誓う。値段を見て、牛丼○杯分だな、という発想はそろそろやめよう。
別荘地のように緑豊かな鎌倉山住宅地を歩いていくと、眺めのいい崖の上に出くわした。遠くに霞んだ山のシルエットが一望でき、キラキラと輝く相模湾が神々しかった。群馬出身の自分にとっては憧れの江の島も全景を見ることができた。みんな思わず「おー!」と声を出し、湘南の絶景に見入っている。坂を上ったご褒美にみんなご満悦だ。


画像15.JPG山頂付近では江の島や相模湾を一望できる

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皆川典久(続編)
皆川典久(東京スリバチ学会 会長)
2003年に東京スリバチ学会を設立し、凹凸地形に着目したフィールドワークを開催、観察と記録を
続けている。2012年に『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』(洋泉社)を上梓、翌年には続編を
刊行。地形マニアとして、タモリ倶楽部やブラタモリなどのTV番組に出演。町の魅力を再発見する
手法が評価され2014年には東京スリバチ学会としてグッドデザイン賞を受賞した。2017年12月に
は『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩・多摩武蔵野編』(洋泉社)を共著で刊行。合言葉は「下
を向いて歩こう」。
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