江の島への近道 湘南モノレール株式会社

ほじくり湘南モノレール(7)

 日が傾いてまいりました。まだ行ってない駅、片瀬山へ。
片瀬山は住宅地の中に唐突にある駅で、駅前には商店街のようなものは何もありません。この駅の北口は一旦地下にくぐる形になっていて、入り口にアーチのように駅名の看板があります。ちょっとした遊園地のようです。
南に少し進むと、スコンと景色が抜けてて空が広い。ここは南側の海に向かって崖のように落ちこんでゆく地形なのです。しかも高級住宅地なので、この地形に合わせたお屋敷がいくつもあるのですが、それがまた半ば空き家と化していたりして独特の雰囲気です。年取っちゃうと傾斜地はキツいから、住みつづけるのはなかなか大変だよね......。
 ここで行きたかったのは「ぐるぐる道」。地図上で発見した、ぐるぐる回っている道です(イラスト参照)。これは見た瞬間に行ってみたいと思った。高速道路みたいな巨大建造物ではなく、密集した住宅地のなかにこんな立体的な道があるなんて、ちょっと想像がつかない。
崖のような坂を降り、谷間の住宅地を通って、ぐるぐる道に着きました。ついて看板を見て分かりましたが、ここは「東レ構外住宅」と呼ばれる社宅の一種で、どうやらぐるぐる道もその敷地内にあたるようです。
実際にぐるぐるした道を歩いてみると、このぐるぐる自体の絶景ぶりよりも、道路周辺がかなり古いまま整備されていないことのほうが気になってしまった。錆びまくったガードレールの間にある木が成長して、ガードレールを完全に食べてしまっています。公道じゃないからわりと放置されてるのかな?
 ぐるぐるを上りきると、古墳のように盛り土された上に「構外住宅」が建っています。盛り土の間に道が通されているので、各棟がなにやらありがたい祭壇のような、かなり特殊な風景。蔦やら木やらが生い茂って遠くは見渡せず、崖下の住宅地とは結界のように隔てられた雲の上の住宅地という感じ。異界に迷い込んだようなすてきな場所です。ぐるぐる道よりこっちのほうが魅力的だ。
棟の横に貼られたアルファベットの棟番号がかわいらしい。宮田さんと二人で、新しい遺跡を見つけたかのように目を輝かせながら写真などを撮っていたら、当然通りすがりの住人の方に不審な目で見られてしまいました。40過ぎくらいの、買い物袋を下げた優しそうな男性。私たちに声を掛けてきました。
「どうかされましたか?(笑顔)」
 笑顔の下に、なんだこの不審人物は?という警戒の色が当然見える。すみません。
「いや、えーと、別にあの怪しいことではなくて、ただちょっと散歩していまして」
完全に怪しいです。悪気はないんですが。
危険人物ではないことを証明するために、宮田さんがちゃんとした質問をしてくれました。ありがとうございます。
「珍しい景色だと思いまして。こちらは建ててどのくらいになるんですか?」
「50年くらいみたいですね。私が住んだのは最近ですが」
なるほど。かなり古いものをまだまだメンテナンスして使う御社の姿勢、街歩き好きとしてはたいへんありがたいです。となると、おそらくぐるぐる道もガードレールも50年か......そりゃ木も成長するよね。
 そんなわけで最終目的地を制覇し、あとはだいぶ日が暮れた住宅街を、急坂を下り、また上って、息を思いきり切らしながら目白山下の駅へ。ああ、このへんからは海が見える。しかしもう疲れすぎて余裕がない。汗だくでしょもたんに乗り込む私たち。
考えてみればこれで、湘南町屋駅以外はすべての駅を使いました。ちょっとした沿線住人より湘南モノレールマスターになったんじゃないですかね。
 大船に向かう車内では、あいかわらず吊り下げられながら爆速で街を駆け抜けるしょもたんの中で、隣の女子2人が「ジェットコースターみたいだね」と言っている。
そう!そうなのよ、分かってるねあなたたち!乗ってるだけでも楽しめるでしょ?
にわかマスターである私は彼女らの勘の良さを褒めたくなりました。ちなみに、降りたらさらに楽しい街歩きスポットがたくさんあるんですよ!手はじめに西鎌倉あたりで降りてみないか、あなたたち。いや、こういうのを楽しめるのは私だけなのかなあ......そんなことないよね?ね?

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能町みね子
北海道出身、茨城県育ち。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
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