江の島への近道 湘南モノレール株式会社

大船―小さな歴史を聞く 銀杏並木と桜並木編(8)桜のその後 後記

映画産業の栄枯盛衰と軌を一にして、時代の変化を映すように桜の樹は切られ、数を減らした。川沿いの桜もソメイヨシノの宿命として、老いて寿命を迎える樹も出てきた。

しかし、地域のなかでは幸いなことに保全の動きがある。「桜が衰弱している、何とかできないか」「桜並木を存続させたい」という地元の人々の声をきっかけとして、じょじょに協力体制がかたまり、2007年に「砂押川プロムナード桜愛護会」というボランティア団体がスタートした。定期的な清掃をはじめ、「樹木医」という専門家を呼んで古い樹を"治療"したり、新しい木を植樹したりといった活動を行っている。

21桜05.JPG22桜04.JPG砂押川沿いの桜。村川邦衛氏、撮影、提供
桜愛護会の活動により新しく植樹されたり、古いソメイヨシノが手入れされたりして、現在、両岸約400メートルに約100本、種々の桜が咲き行き交う人々の目を楽しませる。
写真・画像の無断転載禁止

今回、写真を提供してくださった村川邦衛さん(大船地域づくり会議メンバー)によると「ソメイヨシノが散った後に咲く八重桜がなかなかいい」とのこと。八重桜は、関山(カンザン)に普賢象(フゲンゾウ)の2品種で、沿道に20本ほどあるという。

23桜(八重)01.JPG村川邦衛氏、撮影、提供
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八重桜の他にも、じつはさまざまな品種の桜があって、長く花を楽しむことができる。

桜愛護会では、活動の初期に樹種を確認した。

「早咲きの寒緋(カンピ)桜が2本、枝垂れ桜の若木、女子大側に大島桜、道沿いの家の庭に山桜」と、ひとくちに桜と言ってもさまざまな品種が植えられていることが判明した。

「これに早咲きの玉縄桜が加われば素晴らしい」と考えていたところに、その願いが実現した。

玉縄桜というのは、名前の通り、大船駅の西口側の地名「玉縄」から取られており、「玉縄うまれ・玉縄そだち」の桜。砂押川の桜愛護会と同様に、こちらにも有志で活動をする「玉縄桜をひろめる会」という団体がある。この会の協力で、5本の玉縄桜が植樹されたのである。

毎年、桜の時季になると行われる砂押川の桜まつりも、今年で記念すべき10回目を迎える。この記事を書いているのは2月だが、今から春を心待ちにしている。ぜひ、読まれた方にも時季には身近な美を味わいに散策に出かけて欲しい。

後記

私は、大船の礎を立てた人たちにあった「美しい風景を作り出そうとする意思」のことを思う。そして、それを守ってきた人たちのことを。関さんが銀杏を守っている。砂押川の桜にも守人たちがいる。この根底にあるのは「きれいだ」と心動かされたゆえの衝動ではないだろうか。「美しい」と感覚することで、すでにその人は選ばされているのだ。

渡辺六郎氏は、明治の時代に外国に行き、それまで日本で知っていたのとはまったくちがう風景を見た。そのとき、その「美しさ」に打たれ、驚いたのだと思う。それがゆえに「美しい街」を作ろうと、採算を度外視したような、高い理想に裏打ちされた「都市計画」を立てたのだ。そう思えてならない。私が感動を覚えるのは――そして是非ともお伝えしたいのは――大正期に渡辺六郎氏がかけたこの「美しさ」への熱が、後の時代に生きる人にきちんと伝わっていることである。

<ピンク>の方の経過も同様である。当時、随一の娯楽であり文化であった映画。撮影所の開設を賑々しく祝って贈られた桜の美しさもまた、人を動かした。その心意気に守られて、桜の樹々は大船の人々に季節の美を届けてくれる。あの頃のような派手やかなまでの薄紅の圧倒ではないにせよ――。それはもしかしたら私たちの時代の「美しさ」のあり方を映しているのかも知れない。

星座をつなぐように点々と「美しさ」に感応した人々が熱を伝搬する――このことが、私には目眩のするような奇跡として感じられる。

美しさは遠くまで連れて行ってくれる。自分のことも、他の人のことも。私はそう思うようになった。

(細)

◎『大船ヨイマチ新聞』創刊号には、大船ッ子が街の「小さな歴史」を振り返る「大座談会」を掲載しています。また、今回ご協力いただいた杉本薬局さんから、お若い3代目にも連載を持っていただいております。本紙もお手にとっていただければ幸いです。

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<<主要参考文献>>(アイウエオ順)

鎌倉市中央図書館近代史資料収集室 編集『幻の田園都市から松竹映画都市へ~大正・昭和の大船町の記憶から~』

砂押川プロムナード桜愛護会 編著『プロムナードの桜とともに10年』

藤谷陽悦 著「夢と消えた大船田園都市構想」、『銀座モダンと都市意匠』所収

藤谷陽悦 著「大船田園都市/鎌倉 幻の田園都市計画――『新鎌倉』の構想と挫折」『近代日本の郊外住宅地』所収

山内静夫 著『松竹大船撮影所覚え書き』

山田太一、他 著『人は大切なことも忘れてしまうから―松竹大船撮影所物語』

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