江の島への近道 湘南モノレール株式会社

湘南モノレール開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅(3)

top.jpg

湘南モノレール開業当時の古写真の場所を探し求めてブラブラ歩く第三回目。

前回は、解像度の高い写真に助けられ、なんとか正確な場所を探し当てることに成功した。

今回も、ライターの宮田さん、井上さんと私、西村。そして、湘南モノレール の池田さんとともに、モノレールの古写真からその場所を探し当てたい。

擁壁のある風景

今回、撮影場所を探し当てる古写真はこちら。

02.jpg

いままでの写真と違い、モノレールの橋脚やレールなどがいっさい写ってない。大きくカーブする道路、道にはコンクリートミキサー車の後ろ姿、そして奥には丘をけずったとおぼしき崖と、その崖を覆う擁壁、そして崖にそってゆるやかに登る坂道。

丘の上には、建設中の家屋が点在し、そして丘の上の看板には「只今売出し 江ノ電分譲」と書かれた看板が出ている。

これは明らかに開発途上のニュータウンだ。つまり、古くからあった集落ではなく、これから住宅や商店などが建てられる予定の場所だということが考えられる。

湘南モノレールの会社が保存していた写真なので、湘南モノレール沿線であることは間違いないが、具体的な場所の手がかりになるようなものがあまりない。

この写真は「擁壁の坂」と呼びたい。

偶然気づく

さて、話は前回の「立位体前屈」を探し終えた時にさかのぼる。

目的の場所を探し当て、次の写真「擁壁の坂」を探すため、駅に移動するために歩き始めたときだ。ライターの宮田さんが突然声をあげた。

「あれ、あそこの擁壁って、この写真の場所じゃないですか?」

03.jpg

促されて景色をながめてみると、たしかに、丘の形、擁壁と坂の具合は似ている。似ているけれども、圧倒的に家屋が少ない。

しかし、この西鎌倉周辺は、モノレールの開通とともに開発が進んだニュータウンだ。そうおもえば、写真が撮影された昭和40年頃は、これぐらいなにも無かったということも十分考えられる。

04.jpgたしかに似てるけど......

しかし、どこかわからない古写真の場所が、まったく推理や探索を行う前にいきなり、偶然みつかるものだろうか? どうしても信じられない。

この「擁壁の坂」の写真が撮られたとおぼしき場所を探すため、道を引き返した。

「擁壁の坂」の写真をみると、途中で手前の道に出ようとする車が止まっているのが見える。真ん中あたりが十字路か丁字路になっているのではないか。右側に道路のようなものは見えないので、おそらく丁字路だろう。

この丁字路を、擁壁のある坂道の見え方を考慮した上で、探すと、前回探し当てた「立位体前屈」の赤羽根交差点のすぐ横ではないかということになった。

05.jpg

ちょうど、ガソリンスタンドの手前に、坂につながる丁字路がある。距離を考えるとおそらくここだ。

たしかに雰囲気は似ているといえるけれど、昔の写真に比べて、今は木が生い茂り、建物も多く、様子がまったく違う。決定的な決め手が、ない。

ここで、スマホの地図を確認していた井上さんがあることに気づいた。

「昔の写真の電柱看板を見ると『腰越中央病院』と書いてありますけど、実際この道(県道304号線)をこのまままっすぐ進むと、腰越中央病院につながってますよ」

電柱の看板は、その沿線沿いにある店舗や施設の広告のみ。というわけではないとは思うが、かなり有力な情報ではないだろうか。

ただ、ここがその場所だという証拠にしてはいささか弱い。

06.jpg擁壁を近くで確認してみる

近づいて、擁壁の様子を確認してみたものの、件の写真のものと同じかと言われると、自信をもって同じとはいえない。ようするにわからないのだ。

07.jpg江ノ電分譲が気になる

丘の上にある「江ノ電分譲」も気になる。江ノ島電鉄が過去に住宅の販売を行っていたのではないか。そんな期待を込めて、ネットで検索してみる、しかし、西鎌倉の宅地開発の歴史が知りたいのに、でてくる情報は格安一戸建ての不動産情報ばかり。ネットがまったく役に立たないこともあるのかと、なんとも渋い気持ちになった。

08.jpgここなのか??

探し当てた場所は、丘や道路、擁壁などの位置はぴったりなのだが、なにかこう、これだっ! という、決め手に欠けるのだ。

実際に、古くから住んでいる人に写真を見てもらったらどうか? と、ガソリンスタンド近くにいた、年配の男性に話をきいてみたものの、あまりにも写真が古すぎて、やはり「わからない」という。

もう、一歩、あと少しという感じなのだが、「合ってる」または「違う」というはっきりした判断がほしい。

そばやで休憩

ぐだぐだしていても仕方がないので、ちょうど昼時ということもあり、みんなで、昼食をとることになった。

09.jpgお蕎麦をいただきました

西鎌倉駅前のそばやに入り、注文を終えると、やはり話は先程の場所が「擁壁の坂」の現場なのかどうかという検討になる。

10.jpg写真の場所について検討がはじまる

宮田「ここだと思うんですよ。道路のカーブや丘の位置から考えて間違いないと思うんです」

西村「ガソリンスタンドの手前に、川がありましたが、『擁壁の坂』の写真には、それらしいものが見えないんですよ。橋の上から撮ってるんでしょうか?」

井上「横を向いているトラックの後ろにある看板なんて書いてあるんでしょうね?」

西村「拡大してみます?」

11.jpg

井上「家具センターの看板とトラックの間にある看板......戸田建設ってかいてありませんか?」

西村「その下は湘南モノレールって書いてあるようなきがしますね」

どうやら、坂の上に、工事に関係する施設か現場があったようだ。ただ、これも決め手とはいえない。

暗礁に乗り上げたままだ。

しかし、ここであっさりと問題が解決してしまう。

「なつかしい写真ですね」

そばを食べ終わり、お会計を済ませようとしたところ、念のためにお店の女将に写真をみてもらった。

女将「あぁ、なつかしい写真ですね、これ、そこですよね?」

そこですよね? というか、これがどこか探してるんです我々は! と、前のめり気味に事情を説明したところ、写真をもう一度確認してくれた。

12.jpg

女将の話によると、やはりこれは西鎌倉の丘の昔の写真に違いないという。彼女は、宅地開発される前、まだ、自然が豊富であったころから、西鎌倉に住んでおり、子供の頃は、そのへんでよく遊んだという。

しかも、丘の方に江ノ電の分譲住宅が、たしかにあったということも覚えていらした。

ずいぶん悩まされた「擁壁の坂」の写真。ここであっさりと解決してしまった。やはり、地元に住んでいる、昔のことを知っているひとの証言は強い。言われて改めて見てみると、つじつまのあうことがどんどんわかるのだ。例えば、川。

古い写真には川が写ってない。と思ったけれど、写真の手前をよく見てみると、欄干のない橋のようになっている。

13.jpgいちばん手前、橋っぽい

擁壁も、遠目にもういちど確認してみると、まさにそういう形であることが確認できる。

14.jpgほら

ブロックと擁壁の形が、そっくりなのだ。

つまり、この景色をなんども見たつもりになっていたのに、実は何も見てなかったのだ。

目が節穴とはまさにこのこと。なにに謝ってよいのやらわからないが、とりあえず謝罪しておきたい。申し訳ない。

言われてみれば、そのとおり

最初の直感でここかな? と言い当てた宮田さんはすごい。しかし「正解がそんなに簡単に見つかるものなのだろうか?」という、「正解は苦労をしてやっと見つけるものだ」という「苦労をせにゃならぬバイアス」が働き、観察眼を曇らせてしまった。擁壁やブロックの形なんかは、最初に見えていたはずなのに。である。

ほんとうにつきなみな感想で申し訳ないのだが、ものごとを観察する力がまだまだだとという教訓を得た。

次回は、並んだ橋脚を求めて、モノレールを行ったり来たりする「岩山」「北関東っぽい場所」です。

LINE
Twitter
facebook
google+
hatenablog
西村まさゆき(続編)ポートレート
西村まさゆき(続編)
ライター。鳥取県倉吉市出身、東京都中央区在住。めずらしいのりものに乗ったり、地図で見た気になる場所に行ったり、辞書を集めたりしています。著作『ファミマ入店音の正式なタイトルは大盛況に決まりました』(笠倉出版社)ほか。移動好き。好物は海藻。
Twitter:https://twitter.com/tokyo26
著者のご紹介
mr.ブラーン
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)ポートレート
「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの地を歩く
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト
佐藤淳一ポートレート
乗らずにいられない、懸垂式モノレールの魅力
佐藤淳一
ドボク+動物のかけもち写真家
宮田珠己ポートレート
湘南モノレールはどのぐらいジェットコースターなのか
宮田珠己
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
宮田珠己(続編)ポートレート
5つの面白レールを1日で。ゆかいなのりもの大冒険!
宮田珠己(続編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
村田あやこポートレート
路上に潜む異世界を求めて ー湘南モノレール沿線 路上園芸探索ー
村田あやこ
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(続編)ポートレート
湘南モノレールから歩いていける森巡り
村田あやこ(続編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(変形菌編)ポートレート
ルーペの向こうのちいさな世界
村田あやこ(変形菌編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(大船系植物編)ポートレート
「大船系」植物と玉縄桜~知っていますか?大船生まれの植物たち~
村田あやこ(大船系植物編)
太田和彦ポートレート
大船で飲む
太田和彦
作家。旅と酒をこよなく愛する
八馬智ポートレート
土木構造物としての湘南モノレール鑑賞術
八馬智
ドボクの風景を偏愛する都市鑑賞者
西村まさゆきポートレート
湘南モノレールの昔と今を比べてみる
西村まさゆき
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(続編)ポートレート
開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅
西村まさゆき(続編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(車両基地編)ポートレート
大人のモノレール車両基地見学記
西村まさゆき(車両基地編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
大船ヨイマチ新聞ポートレート
よい街 オーフナ
大船ヨイマチ新聞
大船のフリーペーパー。昼は「良い街」夜は「酔い街」。
皆川典久ポートレート
地形マニアと鉄ちゃんの凸凹乗車体験記〜湘南モノレールに乗って〜
皆川典久
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
皆川典久(続編)ポートレート
湘南モノレールに乗らずに
皆川典久(続編)
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
能町みね子ポートレート
ほじくり湘南モノレール
能町みね子
肩書きに迷いつづけ、自称「自称漫画家」。散歩好き。
ドンツキ協会ポートレート
ドンツキクエスト in 湘南モノレール
ドンツキ協会
ドンツキ協会は東京の路地の町、向島を拠点に、袋小路『ドンツキ』の研究に取り組む団体。
大谷道子ポートレート
湘南モノレール運転士インタビュー 「運転する人どんな人」
大谷道子
ライター・編集者。
井上マサキポートレート
湘南モノレールの「まっすぐ路線図」を鑑賞する
井上マサキ
路線図を鑑賞するライター
井上マサキ(ぶら喜利)ポートレート
ぶら喜利
井上マサキ(ぶら喜利)
路線図を鑑賞するライター
鈴木章夫ポートレート
湘南モノレールバー人図鑑
鈴木章夫
誰かをちょっとだけびっくりさせるのが幸せ。かまくら駅前蔵書室(カマゾウ)室長
二藤部知哉ポートレート
ソラdeブラーンdeラーン
二藤部知哉
沿線在住のんびりブラーンランナー
いのうえのぞみポートレート
湘南フォトレール カメラを持って湘南モノレールに乗ろう!
いのうえのぞみ
モデル・タレントで世界一周を目指すカメラマン
大村祐里子ポートレート
フィルムdeブラーン
大村祐里子
フィルムカメラをこよなく愛する写真家
川口葉子ポートレート
モノレールdeカフェ散歩
川口葉子
都市散歩と喫茶時間を愛するライター、喫茶写真家。
松澤茂信ポートレート
湘南別視点ガイド
松澤茂信
東京別視点ガイド編集長。珍スポットとマニアのマニア。
川内有緒ポートレート
湘南トライアングルをめぐる旅
川内有緒
ノンフィクション作家
田中栄治ポートレート
MonoTube
田中栄治
地上と空のスピード感を追い求めている素人カメラマン
三土たつおポートレート
本物の車内アナウンスが楽しすぎた。
三土たつお
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
三土たつお(続編)ポートレート
湘南モノレール風景図鑑
三土たつお(続編)
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
杉浦貴美子ポートレート
食べる!湘南モノレール -湘南「地形菓子」制作奮闘記-
杉浦貴美子
地図・地形好きライター
今泉慎一ポートレート
〝もののふ隊〟駅前砦にあらわる
今泉慎一
旅・歴史・サブカル好き編集者兼ライター
ワクサカソウヘイポートレート
車窓の冒険
ワクサカソウヘイ
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
ワクサカソウヘイ(夜編)ポートレート
夜になると 湘南モノレールは
ワクサカソウヘイ(夜編)
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
半田カメラポートレート
大船観音の劇的楽しみ方
半田カメラ
大仏写真家
遠藤真人ポートレート
ジェットにGO!GO!!
遠藤真人
モノレールに敬礼!鉄道写真バンザイ!
石川祐基ポートレート
湘南モノレール「もじ鉄」旅
石川祐基
グラフィックデザイナー。鉄道と文字が好きな、もじ鉄。
大竹聡ポートレート
腰越で飲む
大竹聡
酒と酒場をこよなく愛するフリーライター
荻窪圭ポートレート
道標をきっかけに江の島まで古道を辿る
荻窪圭
老舗のデジタル系ライター。古道・古地図愛好家。
松本泰生ポートレート
湘南モノレールが見える階段を探して
松本泰生
階段研究家
大山顕ポートレート
湘南モノレールに乗って体長2kmのヤギを描く
大山顕
ドボクフォトグラファー
田代博ポートレート
湘南モノレールと富士山
田代博
富士山遠望鑑定士。ダイヤモンド富士ハンター。
北尾トロポートレート
町中華タウン大船をゆく
北尾トロ
町中華探検隊隊長
喜清みずほポートレート
失われた 記憶をたどる まぼろしの遊園地「江の島龍口園(えのしまりゅうこうえん)」
喜清みずほ
鎌倉観光ボランティアガイド
宮田珠己(龍口寺編)ポートレート
龍口寺の龍と、謎の仏像
宮田珠己(龍口寺編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
加門七海ポートレート
江の島怪談闇歩き
加門七海
作家
中野純ポートレート
江の島怪談闇歩き
中野純
負の走光性がある、闇歩きガイド
髙山英男ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
髙山英男
中級暗渠ハンター(自称)。
吉村生ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
吉村生
暗渠マニアックス
宮田珠己(空の駅編)ポートレート
湘南江の島駅は、日本一高い駅だった!?〜日本一、地上高が高い駅はどこか?
宮田珠己(空の駅編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
西村まさゆき(駅名編)ポートレート
湘南モノレール「駅名」ルーツをたどる旅
西村まさゆき(駅名編)
石山蓮華ポートレート
いい線いってる夜
石山蓮華
電線愛好家
中島由佳ポートレート
いい線いってる夜
中島由佳
ゴムホースマニア
加賀谷奏子ポートレート
いい線いってる夜
加賀谷奏子
サンポー編集部ポートレート
しょもたんの完全一致を探す散歩
サンポー編集部
散歩の横好き集団
中野純(鎌倉大横断編)ポートレート
鎌倉大横断ミッドナイトハイク
中野純(鎌倉大横断編)
負の走光性がある、闇歩きガイド
森川天喜ポートレート
湘南モノレール全線開通までの全記録
森川天喜
フリージャーナリスト
しょもたんポートレート
モノレールの運転士さんや駅員さんの話をきいてみよう!
しょもたん
湘南モノレールのマスコットキャラクター。
森川天喜(今昔写真撮影隊)ポートレート
湘南モノレール沿線 今昔写真撮影隊!
森川天喜(今昔写真撮影隊)
フリージャーナリスト
モノ喜利(井上マサキ)ポートレート
モノ喜利
モノ喜利(井上マサキ)
めざせ!最優秀ブラーン賞
ヴッパータール空中鉄道座談会ポートレート
ヴッパータール空中鉄道について思いっきり語る
ヴッパータール空中鉄道座談会
ヴッパータール空中鉄道に乗車した人たち
モノ散歩ポートレート
モノ散歩
モノ散歩
沿線の魅力が集結!
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)ポートレート
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)